・・・天理の自然、生命の法則に従うことは、目前の生活解放権利拡張ということより根本的である。現在の社会ではいわゆる婦人の権利拡張の闘争から手を引くことは、一層鎖を重くすることになるが、理想的国家では、処女性、母性、美容の保護、ならびに、これと矛盾・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・こうして新しい領分が開けたわけですから、その開けた直後は高まるというよりも寧ろ広まる時代、拡張の時代です。それが十八世紀の数学であります。十九世紀に移るあたりに、矢張りかかる階段があります。すなわち、この時も急激に変った時代です。一人の代表・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・食みたいな生活をしていまして、そいつらが私に眼をつけ、何かと要らない手伝いなどして、とうとう私はその木賃宿に連れて行かれ、それがまあ悪縁のはじまりでございまして、二つの屋台をくっつけて謂わばまあ店舗の拡張という事になり、私は大工さんの仕事や・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・「ついでながら近頃やっと試験的に学校で行われ出した教授の手段で、もっと拡張を奨励したいのがある。それは教育用の活動フィルムである。活動写真の勝利の進軍は教育の縄張りにも踏み込んでくる。そしてそこで始めて、多数の公開観覧所が卑猥なものやあ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・通り過ぎる汽車の音の強まり弱まり消え去ることによって平面的なスクリーンはたちまち第三次元の空間を獲得して数平方メートルの舞台は数キロメートルの広さに拡張される。遠くから聞こえて来る太鼓の音に聞き耳をたてるヒロインの姿から、一隊の兵士の行進し・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・を加えないではおかないであろう。「読者の中の人間」を拡張し進化させるようなものならばそれを文学と名づけるになんの支障があろうとは思われないのである。 ジャーナリズムと科学 科学が文学の世界に接触するときに必然にあまり・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 市が拡張されて東京は再び三百年前の姿に後戻りをした。東京市何区何町の真中に尾花が戦ぎ百舌が鳴き、狐や狸が散歩する事になったのは愉快である。これで札幌の町の十何条二十何丁の長閑さを羨まなくてもすむことになったわけである。・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ 現在の気象観測制度をもってすれば各気象区域における大体の天気の推移を予知する事は十分可能にして、観測の範囲の拡張につれて的中の公算を増すべしと考えらる。しかれども毎平方里における雨量の異同を予言するがごときは望み難かるべし。 地震・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 飯を食いながら女中の話を聞くと、せんだってなんとかいう博士がこの公園を見に来て、これはたいへんにいい所だからこの形勝を保存しなければいけないという事になり、さらに裏手の丘までも公園の地域を拡張する事になった。「そうなると私どもはここを・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・そこにはともかくも一般政治から独立した恒久的観測研究の系統が永い以前から確定されており、その上に当代の有名な学者の数々を聚めているのであるから、この際思い切って気象台の観測事業の範囲を徹底的に拡張して、そうして前述のごときあらゆる天災の根本・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
出典:青空文庫