・・・実際同じ会場に懸かっている大小さまざまな画の中で、この一枚に拮抗し得るほど力強い画は、どこにも見出す事が出来なかったのである。「大へんに感心していますね。」 こう云う言と共に肩を叩かれた私は、あたかも何かが心から振い落されたような気・・・ 芥川竜之介 「沼地」
・・・何といっても日本の最高学府たる帝国大学に対しては民間私学は顔色なき中に優に大学と拮抗して覇を立つるに足るは実業における三田と文学における早稲田とで、この早稲田の文学をしてシカク威力あらしめたるは一に坪内君の功労である。文部大臣が三君の中先ず・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・当時池之端数寄屋町の芸者は新柳二橋の妓と頡頏して其品致を下さなかった。さればこの時代に在って上野の風景を記述した詩文雑著のたぐいにして数寄屋町の妓院に説き及ばないものは殆無い。清親の風景板画に雪中の池を描いて之に妓を配合せしめたのも蓋偶然で・・・ 永井荷風 「上野」
・・・結局双方の智力たがいに相頡頏するに非ざれば、その交際の権利もまた頡頏すべからざるなり。交際の難きものというべし。而してその難きとは、何事に比すれば難く、何物に比すれば易きや。今の日本の有様にては、これを至難にして比すべきものなしといわざるを・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・徳論者の言を聞き、論者が特にこの大切なる一点をば軽々看過してあたかも不問に附する者多きを見て窃かに怪しむのみか、その無識を冷笑するほどの次第なれば、大いに婦人の地位を推してこれを高処に進め、以て男子に拮抗せしめんとするの考案なきにあらず。徹・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫