・・・甚太夫は竹刀を執って、また三人の侍を打ち据えた。四人目には家中の若侍に、新陰流の剣術を指南している瀬沼兵衛が相手になった。甚太夫は指南番の面目を思って、兵衛に勝を譲ろうと思った。が、勝を譲ったと云う事が、心あるものには分るように、手際よく負・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・御指南番山本小左衛門殿の道場に納会の試合がございました。その節わたくしは小左衛門殿の代りに行司の役を勤めました。もっとも目録以下のものの勝負だけを見届けたのでございまする。数馬の試合を致した時にも、行司はやはりわたくしでございました。」・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・釣船頭というものは魚釣の指南番か案内人のように思う方もあるかも知れませぬけれども、元来そういうものじゃないので、ただ魚釣をして遊ぶ人の相手になるまでで、つまり客を扱うものなんですから、長く船頭をしていた者なんぞというものはよく人を呑込み、そ・・・ 幸田露伴 「幻談」
出典:青空文庫