・・・たとえば、すすり泣く女の肩の運動でも、実際の比例よりも郭大された振幅で行なわれる。人間の役者の場合だったら、かえって滑稽になるだろうと思われるこの強調が、人形だときわめて自然に見える。そうして、そのすすりなきの現象が、現実以上に現実的に表現・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・地震だなと思うと、すぐにその初期微動の長さの秒数を数えたり、主要動が始まればその方向や週期や振幅を出来るだけ確実に認識しようとする努力が先に立つ。そうしてそれをやっている間に同時にその地震の強弱程度が直観的にかなり明瞭に感知されるから、たい・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・特別な設計をした振動台の上に固定された椅子に被試験者を腰掛けさせ、そうしてその台にある一定週期の振動を与えながらその振幅をいろいろに増減する。そうしてちょうど振動感覚の限界に相当する振幅を測定する。次には週期を変えて、また同じ事をする。そう・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・さらにまたその平均水準の上下に昇降する週期的変化の「振幅」がやはり人によって色々の差があり、ある人は春秋の差がそれほど大きくないのに、ある人はそれが割合に大きいという風な変異があるものとする。 数式で書き現わすと、この問題の分泌量Hがざ・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・ 音についても同様な限界がある、振動数二三十以下あるいは一二万以上の音波はもはや音として聞く事はできぬ。振幅が一定の限度以下でも同様である。また振動数の少しぐらい違った音の高低の区別は到底わからぬものである。 触感によって温度や重量・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・テンポにもエキスプレションにも少なくも理論的には相当な振幅はあった。ただ惜しいことには至芸にのみ望み得られる強い衝動が欠けていた。アメリカン・レビューにはそういう古典的な意味での音楽などはない代りに、オリンピックのグラウンドや拳闘のリンクに・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
出典:青空文庫