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・・・ と肩を引いて、身を斜め、捩り切りそうに袖を合わせて、女房は背向になンぬ。 奴は出る杭を打つ手つき、ポンポンと天窓をたたいて、「しまった! 姉さん、何も秘すというわけじゃねえだよ。 こんの兄哥もそういうし、乗組んだ理右衛門徒・・・
泉鏡花
「海異記」
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・・・暫く沈黙がつづいたが、しまいにその女のひとは思案にあまって投げすてたというように、コートにつつんで立っている体を捩り、「じゃ、何でもようございますわ、おみつくろい下されば……」と云った。「お弁当をお入れしましょうか」「ええ」主人・・・
宮本百合子
「日記」