・・・これは、絶対に排撃しなければならない。老博士は、この伝統の打破に立ったわけであります。」意気いよいよあがった。みんなは、一向に面白くない。末弟ひとり、まさにその老博士の如くふるいたって、さらにがくがくの論をつづける。「このごろでは、解析・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・を極度に排撃なさるのも、あなたの日常生活に於いてそれに食傷して居られるからでもないか知らとさえ私には思われました。私は極端に糠味噌くさい生活をしているので、ことさらにそう思われるのかも知れませんが、五十歳を過ぎた大作家が、おくめんも無く、こ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・閨の審判を、どんなにきびしく排撃しても、しすぎることはない、と、とうとう私に確信させてしまったほどの功労者は、誰であったか。無智の洗濯女よ。妻は、職業でない。妻は、事務でない。ただ、すがれよ、頼れよ、わが腕の枕の細きが故か、猫の子一匹、いの・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・英米的思想の排撃すべきは、自己優越感を以て東亜を植民地視するその帝国主義にあるのでなければならない。又国内思想指導の方針としては、較もすれば党派的に陥る全体主義ではなくして、何処までも公明正大なる君民一体、万民翼賛の皇道でなければならない。・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ 儒者が地獄極楽の仏説を証拠なきものなりとて排撃しながら、自家においては、数百年のその間、降雨の一理をだに推究したる者なし。雨は天より降るといい、あるいは雲凝りて雨となるというのみにして、蒸発の理と数とにいたりては、かつてその証拠を求む・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・例えば、ソヴェト同盟の五ヵ年計画のはじめにされた職場の酔っぱらい排撃、官僚主義排撃のような主題だ。それは相当うまく行った。 ところが、そういう社会的現象をみんなひっくるめて、プロレタリアート独裁下のソヴェト生活という風な大主題を扱おうと・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・肉体派、中間小説派の作者たちとその作品のそまつな戦後的商品性を、へど的にむき出してその安価さを排撃した。けれども、「小豚派作家論」と題してきり出された勇ましいその評論も、すえは何となししんみりして、最後のくだり一転は筆者がひとしおいとしく思・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・工場、役所の内部では、新しい溌溂たる生産能率増進のために、官僚主義排撃が、盛に行われた。 反革命的異分子の清掃が、あらゆる部門にわたって積極的に行われはじめた。 間断なき週間制によって、五日週間を働くようになった一般勤労者は、職場職・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・知育偏重排撃という流行的傾向があって、昨今その流行に乗じて語る人々は科学の精神がおのずから本来そなえている倫理性を理解していない場合が多すぎる印象である。もし数理の観念と打算性と結びつけてしか考えられないとしたら、それはそれ等の人々の恥辱を・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・・二六事件の本質を、陸軍内部の国体原理主義者――皇道派と、人民覇道派――統制派との闘争とし、敗北した二・二六事件の本質を、労働者農民の窮乏に痛憤した青年将校の蹶起、侵略戦争に反対し、陸軍内の閥と幕僚を排撃して、陸軍の自由を愛好する分子の挙げ・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
出典:青空文庫