・・・彼等が上鉱を掘り出す程、肥って行くのは、自動車を乗りまわしたり、ゴルフに夢中になっているMの一族だ。畜生! せめてもの腹癒せに、鉱石をかくしてやりたかった。 女達は、彼の背後で、ガッタン/\鉱車へ鉱石を放りこんでいた。随分遠くケージから・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・こういう変わり者はどうかすると万人の見るものを見落としがちである代わりに、いかなる案内記にもかいてないいいものを掘り出す機会がある。 私が昔二三人連れで英国の某離宮を見物に行った時に、その中のある一人は、始終片手に開いたベデカを離さず、・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ もし科学上の事実や方則は人間未生以前から存していて、ただ科学者のこれを発見し掘出すのを待っているに過ぎぬと考える者の立場から見れば、このくらい古い物はない道理である。こういう意味からすれば科学者の探求的欲望は骨董狂の掘出し慾と類する点・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・何故かというと、学者に限らず人間が三人以上も寄合って相談をする場合、特にものの価値を判断する場合となると、物の長所を拾い出す人よりはとかくあらを拾い出し掘り出す人が多くなる傾向がある。それがまた特に合議者間に平素から意思の疎通を欠いでいるよ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ 結局自分に入用なものは、品物でも知識でも、自分で骨折って掘り出すよりほかに道はない。本屋にあまりたくさんいろいろな本があるので、ついついだまされて本さえ見れば学者になれるというような錯覚にとらわれるのである。 四 錯覚・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・それを掘り出すだけのことである。ニュートンがその一つの破片を掘り出し、フレネル、ホイゲンス等はもう一つの欠けらを掘り出した。それからそれといろいろの欠けらが掘り出されたが、欠けらと欠けらがしっくり合わなくて困っていた。どちらの欠けらも「間違・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・美術批評家でも何でもない自分等は、そういう第一印象を無視して無理に職務的に理論的に一つ一つの絵の鑑賞点を虫眼鏡で掘り出す気にはどうにもなれないのである。 横山大観氏の絵だけには、いつでも何かしら人を引きつける多少の内容といったようなもの・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・自分らはこれを天文台と名づけていたが、実は昔の射的場の玉よけの跡であったので時々砂の中から長い鉛玉を掘り出す事があった。年上の子供はこの砂山によじ登ってはすべり落ちる。時々戦争ごっこもやった。賊軍が天文台の上に軍旗を守ってい・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・つまらない事から、つまる事を掘り出すこともあれば、つまる問題からつまらない事のみ拾い出すこともしばしばである。 科学の教育に当るものは、この一事を忘れてはならない。そして、後進の興味の赴くところに従って、自由な発育を遂げさせなければなら・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・あの通りの眉や鼻が木の中に埋っているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。 自分はこの時始めて彫刻とはそんなものかと思い出した。はたしてそうなら誰にでもできる事・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
出典:青空文庫