・・・ と見ると、恍惚した美しい顔を仰向けて、枝からばらばらと降懸る火の粉を、霰は五合と掬うように、綺麗な袂で受けながら、「先生、沢山に茱萸が。」 と云って、ろうたけるまで莞爾した。 雑所は諸膝を折って、倒れるように、その傍で息を・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・』と掬うようにして僕を起こした。僕はそのまま小藪のなかに飛び込んだ。そして叔父さんも続いて飛び込んだ。『打ったな!』と叔父さんは鹿を一目見て叫んだ。そして何とも形容のしようのない妙な笑いを目元に浮かべて僕に抱きついた。そして目のうちには・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・娘さんは、うけ口の顎を掬うように柱時計を見上げ、「ひどいわ」と云った。「八時頃来るから、そうしたらすぐ帰してやるって云った癖して!」 朝の六時頃、いつものとおりに弁当をつめて何の気もなくいざ会社へ出かけようとしているところへ・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫