・・・ 先ず同じ形で同じ寸法の壺のような土器を二つ揃える。次にこの器の口よりもずっと小さい木栓を一つずつ作ってその真中におのおの一本の棒を立てる。この棒に幾筋も横線を刻んで棒の側面を区分しておいてそれからその一区分ごとに色々な簡単な通信文を書・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ これらの条項を遺憾なく揃えるためには過去の文学を材料とせねばならぬ。過去の批評を一括してその変遷を知らねばならぬ。したがって上下数千年に渉って抽象的の工夫を費やさねばならぬ。右から見ている人と左から眺めている人との関係を同じ平面にあつ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・碌さんも同じく白地の単衣の襟をかき合せて、だらしのない膝頭を行儀よく揃える。やがて圭さんが云う。「僕の小供の時住んでた町の真中に、一軒豆腐屋があってね」「豆腐屋があって?」「豆腐屋があって、その豆腐屋の角から一丁ばかり爪先上がり・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ あの顔に向う疵では、間の抜けた丹下左膳だねと笑いながら、すぐ註文の薬品その他を揃える仕度にとりかかった。 今年四つになる男の児がいて、その児は河北の夜に倒れたものの又従弟とでもいうつづきあいにあたっている。慰問袋を女が三人あつまっ・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・折角の思いつきも右の始末ですが、今日手紙に書いたように、もし島田の人が本当に心配をするなら、二度目の速達の品を揃える時間はあったわけですから、すべてが徒労になったわけでもあるまいと思います。お母さんも薬のことはお喜びでお手紙がありましたから・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・すると、階下から二人づれの若い男が、足音を揃えるように登って来て、ひろ子を一寸見て、わきを通りぬけ、右手つき当りのドアの中へ入った。そこには人がいるらしい。しかし、ひろ子は、どうしても、ずけずけ入って行って、内部を知らない室のドアをあける気・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫