・・・やがて小作者らの要求が笠井によって提出せらるべき順番が来た。彼れは先ず親方は親で小作は子だと説き出して、小作者側の要求をかなり強くいい張った跡で、それはしかし無理な御願いだとか、物の解らない自分たちが考える事だからだとか、そんな事は先ず後廻・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ いッそ、かの女の思うままになっているくらいなら、むずかしいしかもあやふやな問題を提出して、吉弥に敬して遠ざけられたり、その親どもにかげで嫌われたりするよりか、全く一心をあげて、かの女の真情を動かした方がよかろうとも思った。 僕の胸はい・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・中には又突拍子もない質問を提出したものもあった。曰く、『焼けた本の目録はありますか?』 丸善は如何に機敏でも常から焼けるのを待構えて、焼けるべく予想する本の目録を作って置かない。又焼けてから半日経たぬ間に焼けた本の目録を作るは丸善のよう・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・問題の提出者たる古典科出身のYは不可解な顔をして何ともいわなかった。 ドストエフスキーを読んで落雷に出会ったような心地のした私は更に二葉亭に接して千丈の飛瀑に打たれたような感があった。それまで実は小説その他のいわゆる軟文学をただの一時の・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・折から閣員の一人隈山子爵が海外から帰朝してこの猿芝居的欧化政策に同感すると思いの外慨然として靖献遺言的の建白をし、維新以来二十年間沈黙した海舟伯までが恭謹なる候文の意見書を提出したので、国論忽ち一時に沸騰して日本の危機を絶叫し、舞踏会の才子・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・しかも、一たび神様となるや、その権威は絶対であって、片言隻句ことごとく神聖視されて、敗戦後各分野で権威や神聖への疑義が提出されているのに、文壇の権威は少しも疑われていないのは、何たる怠慢であろうか。フランスのように多くの古典を伝統として持っ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ そして、そのことはまた、もし二人が隊長の定めた時間内に、鶏を持参して帰らなければ、「鶏の徴発が出来んとは、貴様はそれでも日本軍人か、いやしくも日本の軍人である限り、百姓どもは喜んで鶏を提出する筈だ。――さては貴様らは俺に鶏を食べさ・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ところが先生僕と比較すると初から利口であったねエ、二月ばかりも辛棒していたろうか、或日こんな馬鹿気たことは断然止うという動議を提出した、その議論は何も自からこんな思をして隠者になる必要はない自然と戦うよりか寧ろ世間と格闘しようじゃアないか、・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ イエスがこの問いを提出するまで誰も自分の良心に対してかく問い得なかった。財の私的所有ならびに商業は倫理的に正しきものなりや? マルクスが問うてみせるまで、常人はそれほどにも自分らの禍福の根因であるこの問いを問うことができなかった。 天・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・しかし私は至って無器用な者でありまして、有益でもあり、かつ興味もあるというような、気のきいた事を提出致しまして、そして皆さんの思召に酬いる、というような巧なる事はうまく出来ませぬので、已むを得ず自分の方の圃のものをば、取り繕いもしませんで無・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
出典:青空文庫