・・・ 私のいった第一の種類に属する芸術家は階級意識に超越しているから、私の提起した問題などはもとより念頭にあろうはずがない。その人たちにとっては、私の提議は半顧の価値もなかるべきはずのものだ。私はそれほどまでに真に純粋に芸術に没頭しうる芸術・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・或人は丸善の火災が文明に及ぼす影響などゝ云う大問題を提起した。中には又突拍子もない質問を提出したものもあった。曰く、『焼けた本の目録はありますか?』 丸善は如何に機敏でも常から焼けるのを待構えて、焼けるべく予想する本の目録を作って置かな・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・この人の口から日本将来の文章という問題が提起された。その時の二葉亭の答が、今では発揮と覚えていないが、何でもこういう意味であった。「一体文章の目的は何である乎。真理を発揮するのが文章の目的乎、人生を説明するのが文章の目的乎、この問題が決しな・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ しかしながら前にも述べた如く、良書とは自分の抱く生の問いにこたえ得る書物のみではなく、生の問いそのものをも提起してくれるものはさらに良書ではある。「いかに問うか」ということは素質に属する。天才は常人よりももっと深く、高く、鋭く問い得る・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・禅宗の味噌すり坊主のいわゆる脊梁骨を提起した姿勢になって、「そんな無茶なことを云い出しては人迷わせだヨ。腕で無くって何で芸術が出来る。まして君なぞ既にいい腕になっているのだもの、いよいよ腕を磨くべしだネ。」 戦闘が開始されたようなも・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・余が不敏を顧みずここに二、三の問題を提起して批判を仰ぐ所因もまたこれに外ならず。ただ徒らに冗漫の辞を羅列して問題の要旨に触るるを得ざるは深く自ら慚ずる所なり。これに依って先覚諸氏の示教に接する機を得ば実に望外の幸いなり。 ・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・それにも係らず黙々として僕は一語をも発せず万事を山本さんに一任して事を済ませたのは、万一博文館が訴訟を提起した場合、当初出版の証人として木曜会会員の出廷を余儀なくせしむるに至らむ事を僕は憚った故である。博文館は既に頃日、同館とは殆三十年間交・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・こうして意識の内容のいかんと、この連続の順序のいかんと二つに分れて問題は提起される訳であります。これを合すれば、いかなる内容の意識をいかなる順序に連続させるかの問題に帰着します。吾人がこの問題に逢着したとき――吾人は必ずこの問題に逢着するに・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 扨女大学の離縁法は右に記したる七去にして、民法親族編第八百十二条に、夫婦の一方は左の場合に限り離婚の訴を提起することを得と記して、一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ二 妻カ姦通ヲ為シタルトキ三 夫カ姦淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタ・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 新しい日本が誕生するならば、その民主的な第一日の暁に、この点が、最も根本的な人権の問題として提起されなければならないのである。 司法省の部内にも種々の動きが在ることを新聞は報じている。そして、その動きは、二枚の種板が一つの暗箱の中・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
出典:青空文庫