・・・彼は個人主義の法治国家のかわりに、社会連帯の利害の上に建設せらるべき文化国家の理想をおき換えることを要請した。文化国家は国家の統制力によって、個人が孤立しては到底得られないような教養と力と自由とを国民に享受せしめねばならぬ。かかる理想から労・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・密輸入者が国外へ持ちだしたルーブル紙幣を金貨に換える換え場がなくなったのだ。 日本のブル新聞は、鮮銀と、漁業会社に肩を持って、ぎょうぎょうしげに問題を取り上げていた。 しかし、「そうだ、もっと早くから、ルーブル紙幣の暗黒売買を禁止し・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 二年兵は、軍服と、襦袢、袴下を出してくにから着てきた服をそれと着換えるように云った。 うるおいのない窓、黒くすゝけた天井、太い柱、窮屈な軍服、それ等のものすべてが私に、冷たく、陰鬱に感じられた。この陰鬱なところから、私はぬけ出るこ・・・ 黒島伝治 「入営前後」
・・・着物はもう着換えていた。着換えるまで自分は何の気もなしにいたけれど、こうして島の宿りに客となって、女の人の着物を借りて着たのかと思うと、脱ぐ段になって一種の艶な感じが起った。何だかもう少し着ていたいようにも思われた。そして、しばらく羽織の赤・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・きのう、きょう、めっきり涼しくなって、そろそろセルの季節にはいりましたから、早速、黒地の単衣に着換えるつもりでございます。こんな身の上のままに秋も過ぎ、冬も過ぎ、春も過ぎ、またぞろ夏がやって来て、ふたたび白地のゆかたを着て歩かなければならな・・・ 太宰治 「燈籠」
・・・はだいぶちがうが、しかしpをbに、kをhに代えるとおのずからペルシアの春に接近する。この置き換えは無理ではない。「張る」「ふえる」「腫るる」などもhまたはfにrの結合したものである。full, voll, πλω なども連想される。・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・日本語もこういうぐあいに活用させる人ばかりだったら、字を見なければわからないあるいは字を見ても読めないような生硬な術語などをやめてしまって、もう少し親しみのあるものに代える事ができそうである。国語調査会とかいうものでこういういい言葉を調べ上・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・ こういうことは、貴誌の方々には珍しくも何でもないことと思いますが、ただ平生から思っていることでありますから、これだけのことを申上げて、御懇ろな御手紙に対する御返事に代えることと致したいと思います。どうか悪しからず御諒察を願います。・・・ 寺田寅彦 「書簡(2[#「2」はローマ数字2、1-13-22])」
・・・チョッキだけ白いのに換える。甲板の寝椅子で日記を書いていると、十三四ぐらいの女の子がそっとのぞきに来た。黒んぼの子守がまっかな上着に紺青に白縞のはいった袴を着て二人の子供を遊ばせている。黒い素足のままで。 ホンコンから乗った若いハイカラ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・どんな句にでも、云い換えるとどんな「人間」にでも同情し得るだけの心の広さがなくてはいい俳諧は出来ない。 二 九月二十四日の暴風雨に庭の桜の樹が一本折れた。今年の春、勝手口にあった藤を移植して桜にからませた、そ・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫