・・・人間の人間的活動をそれだけ多くしたという事である。換言するとそれだけ多く「生きた」ということである。 こう考えて来るとわれわれの「寿命」すなわち「生きる期間」の長短を測る単位はわれわれの身体の固有振動週期だということになる。 そこで・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・この際吾人の行為に裏書きする根拠はいずこにありやというに、第一にこれら要素の空間的時間的分布が規則正しきという事なり。換言すれば、これら要素の時間的空間的微分係数が小なりという事なり。これが小なる時に等温線や等圧線は有意義となり、これに物理・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・そのおかげで、何かの機会にはえ以外の媒介によって多量の黴菌を取り込んだときでもそれに堪えられるだけの資格が備わっているのかもしれない。換言すればはえはわれわれの五体をワクチン製造所として奉職する技師技手の亜類であるかもしれないのである。・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・理想的には、たとえば三つの内の一つが一階にいるときに他の二つはそれぞれ八階と四階のへんにいるほうがよさそうに思われる。換言すれば週期的運動の位相がほぼ等分にちがっているほうが乗客の待ち合わせる時間を均等にし従って乗客の数を均等に分布する点で・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・私のひそかに考えているところでは、枕詞がよび起こす連想の世界があらかじめ一つの舞台装置を展開してやがてその前に演出さるべき主観の活躍に適当な環境を組み立てるという役目をするのではないかと思われる。換言すればある特殊な雰囲気をよび出すための呪・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・この哀れとおかしみとはもはや物象に対する自我の主観の感情ではなくて、認識された物の本情の風姿であり容貌である。換言すれば事物に投射された潜在的国民思想の影像である。思うにかのチェホフやチャプリンの泣き笑いといえどもこの点ではおそらく同様であ・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・もう一つの重大な理由と思われるのは日本古来の短い定型詩の存在とその流行によってこの上述の魔術に対するわれわれの感受性が養われて来たことである。換言すればわれわれが、長い修業によって「象徴国の国語」に習熟して来たせいである。 ステファン・・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・しからばその価値は何によって規定さるるかと云えば、それは作者の能知が前に云った普遍絶対の原型に近似する程度にあると云われる。換言すればその詩を味わう読者各自の能知に内在する、その原型の模型にどれだけ照応するかの程度によって各評価者の価値判断・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・ ただ科学は主として物質界の現象に関係しているために、換言すれば人間の能知と切り離された所知者自身の間の交渉に関しているために、科学上の方則は科学者の個性と切り離され、従ってその表現は単義的普遍的なものになっている。これに反して漫画家の・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・ もっともこれらの場合では、観客を一度完全にスクリーンの上の人物の内部へ引き入れてしまわなければならない。換言すれば観客を画中人物のまぶたの内側へ入れてしまわなければせっかくの技巧が意味をなさないことになる。しかし映画監督がそういう魔術・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
出典:青空文庫