・・・窪田さんや条理の分った山崎のお母さんたちが、一生ケン命に、だまされるどころか、丁度その反対で、上田や大川たちの搾取の生活を解放するために、伊藤や山崎などが先頭に立って、一身を犠牲にしてやっているのだと云ってきかせても、一向にきゝ入れないのだ・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・水はそのありたけの勢力を機械に搾取されて、すっかりくたびれ果てて、よろよろと出て来るのである。しかし水は労働争議などという言葉は夢にも知らない。 人間は自然を征服し自然を駆使していると思っている。しかし自然があばれだすと手がつけられない・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
・・・松平氏は資本家で搾取者であったろうが、彼の闘志と赤色趣味とは今のプロレタリア運動にたずさわる人々と共通なものをもっていた。しかしまたピンヘッドやサンライズを駆逐して国産を宣伝した点では一種のファシストでもあったのである。彼もたしかに時代の新・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・氷海の無辜の住民たる白熊に対してはソビエト探険隊員は残虐なる暴君として血と生命との搾取者としてスクリーンの上に映写されるのである。 白熊がもしもチンパンジーであったら、この映画の観客に与える情緒は少しちがうであろう。チンパンジーの代わり・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・詳細な事実は確かでないが、なんでもさるかに合戦の話に出て来るさるが資本家でかにが労働者だということになっており、かにの労働によって栽培した柿の実をさる公が横領し搾取することになるそうである。なるほどそう言えば、そうも言われるかもしれない。し・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・こんな状態の女を搾取材料にしている三人の蛞蝓共を、「叩き壊してやろう」と決心した。「誰かがひどくしたのかね。誰かに苛められたの」私は入口の方をチョッと見やりながら訊いた。 もう戸外はすっかり真っ暗になってしまった。此だだっ広い押しつ・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・お前には権力ってものがあるんだ。搾取機関と補助機関があるんだ。お前たちは、ありとあらゆるものを、自分の手先に使い、それを利用することができる。たとえばだ、ほんとうは俺たちと兄弟なんだが、それに、ほんの「ポッチリ」目腐金をくれてやって、お前の・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・それは、ひどい搾取下にある島民たちで生活されているが、見たところは、パラダイスであった。セーラーたちは、いつもその島々を、恋人のように懐しんだ。だが、その島も、船が寄港しない島に限るのであった。船がつくと、どんな島でも、資本主義にその生命を・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・日本の紡績工業者は、新卒業子女の大部分に当る十万八千三百六十八人を就職させようとしているが、日本の紡績工業界は永年、少女たちを搾取する傾向で世界に有名である。このような封建的な思想を違法とするいくつかの法律がきめられたが、少女たちも親たちも・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・を放言して、パージにかかわらず事大主義の政治的発言にまで立ち至っている林房雄の考え方は、一九三七年彼が官吏・軍人・実業家の関心事、すなわち侵略と搾取への情熱を文学の中心課題とすべきであるといった本質と、なんらちがったものでないことを知ること・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
出典:青空文庫