・・・その言い草がおもしろいじゃアないか、こういうんだ、今度代々木の八幡宮が改築になったからそれへ奉納したいというんだ。それから老爺しきりと八幡の新築の立派なことなんかしゃべっているから、僕は聴きながら考えた、この画はともかくもわがためには紀念す・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・と言われて自分は強て争わず、めいり込んだ気を引きたてて改築事務を少しばかり執て床に就いた。 五月七日 一寝入したかと思うと、フト眼が覚めた、眼が覚めたのではなく可怕い力が闇の底から手を伸して揺り起したのである。 その頃学校改築の・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・翌日この劇場前を通ったら、なるほど、すべての入り口が閉鎖され平生のにぎやかな粧飾が全部取り払われて、そうして中央の入り口の前に「場内改築並びに整理のために臨時休業」という立て札が立っている。 近傍一帯が急にさびれて見えた。隣の東京朝日新・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・ 昔の丸善の旧式なお店ふうの建物が改築されて今の堂々たる赤煉瓦に変わったのはいつごろであったか思い出せない。たぶん自分が二年ばかり東京にいなかった間の事であろうと思う。元の薄暗い窮屈な室に比べて、天井の高い窓の多い今の二階の室は比較にな・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・それ故、間もなく新しい主人は門の塀まで改築してしまった事を私は知っている。乃ち私の稚時の古跡はもう影も形もなくこの浮世からは湮滅してしまったのだ…… * 寺院と称する大きな美術の製作は偉大な力を以てその所在の土・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・しかしこの堂宇は改築されて今では風致に乏しいものとなり、崖の周囲に茂っていた老樹もなくなり、岡の上に立っていた戸田茂睡の古碑も震災に砕かれたまま取除けられてしまったので、今日では今戸橋からこの岡を仰いで、「切凧の夕越え行くや待乳山」の句を思・・・ 永井荷風 「水のながれ」
・・・ 校舎が改築されたのは、何時であったか。私は、未だ一度も内部の模様を見知らない。又、見たい心持も起らない。一つの学校として、長年風雨に打ち叩かれた建物よりは、新らしい、高い、ハイカラーな校舎を持つ方が勿論結構である。お目出度い。けれども・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・幾度かけ合っても改築せぬ。そのうち或る日の昼、お神さんが飯の仕度につけたストーヴの火が空中瓦斯を引いて大爆発をした。火は火を呼び、更に地べたそのものが火をふき出したが、男たちは油田へ出切っている間の出来事である。三百数十人の大小の死体とメラ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・それで町の有志ともはかって、十万円ばかりの余算で、内苑外苑からすっかり改築して、伊勢まで行かれない人々は、此処へ来て、お参〔以下欠〕 四月二十七日 今日大学の大通りを散歩して、計らずも、久しい間求めて居たリビングストン伝を見出す・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
出典:青空文庫