・・・この頃の洋楽流行時代に居合わして、いわゆる鋸の目を立てるようなヴァイオリンやシャモの絞殺されるようなコロラチゥラ・ソプラノでもそこらここらで聴かされ、加之にラジオで放送までされたら二葉亭はとても助かるまい。苦虫潰しても居堪まれないだろう。・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・蚊に食われながら聴いていると、やがてそれがすんで、次に落語の放送でした。が、アナウンサーの紹介を聴いたとたん、私は思わず涙を落しました。出演者は思いもかけぬ父の円団治でした。なつかしい父の声、人々は皆蚊帳の中にはいってゲラゲラ笑いながら聴い・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・新派の芝居や喜劇や放送劇や浪花節や講談や落語や通俗小説には、一種きまりきった百姓言葉乃至田舎言葉、たとえば「そうだんべ」とか「おら知ンねえだよ」などという紋切型が、あるいは喋られあるいは書かれて、われわれをうんざりさせ、辟易させ、苦笑させる・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・化されると、文壇の常識を破って、自分で脚色をし、それが玄人はだしのシナリオだと騒がれたのに気を良くして、次々とオリジナル・シナリオを書いたのをはじめ、芝居の脚本も頼まれれば書いて自分で演出し、ラジオの放送劇も二つ三つ書きだしているうちに、そ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・という題で朝っぱらから放送したが、その時私を紹介したアナウンサーは妙齢の乙女で、「只今よりエロチ……」と言いかけて私を見ると、耳の附根まで赧くなった。私は十五分の予定だったその放送を十分で終ってしまったが、端折った残りの五分間で、「皆さん、・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・明日の正午に、重大放送があるということだ」「えっ? 降伏……? 赤鬼が青鬼になった……? ふーん」 白崎は思わず唸ったが、やがて昂奮が静まって来ると、がっくりしたように、「俺はいつも何々しようとした途端に、必ず際どい所で故障がは・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・レヴュの放送を聴いて、大阪劇場の裏で殺されていた娘のことを思いだしたためだろうか、一つには「波屋」へ行って、新しく出た雑誌の創刊号が買いたかったのだ。 難波へ出るには、岸ノ里で高野線を本線に乗りかえるのだが、乗りかえが面倒なので、汐見橋・・・ 織田作之助 「神経」
・・・千日前のそんな事件をわざわざ取り上げて書いてみようとする物好きな作家は、今の所私のほかには無さそうだし、そんなものでも書いて置けば当時の千日前を偲ぶよすがにもなろうとは言うものの、近頃放送されている昔の流行歌も聴けば何か白々しくチグハグであ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・私は今春、招魂祭の夜の放送を聞いて、しみじみと思ったのである。近代の知性は冷やかに死後の再会というようなことを否定するであろうが、この世界をこのアクチュアルな世界すなわち娑婆世界のみに限るのは絶対の根拠はなく、それがどのような仕組みに構成さ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・慶応贔屓で、試合の仲継放送があると、わざわざ隣村の時計屋の前まで、自転車できゝに出かけた。 五月一日の朝のことである。今時分、O市では、中ノ島公園のあの橋をおりて、赤い組合旗と、沢山の労働者が、どん/\集っていることだろうな、と西山は考・・・ 黒島伝治 「鍬と鎌の五月」
出典:青空文庫