・・・九頭竜も堂脇も……今あけます、ちょっと待ってください……九頭竜も堂脇もたまらない俗物だが、政略上向かっ腹を立てて事をし損じないようにみんな誓え。一同 誓う。花田 泣ける奴は時々涙をこぼすようにしろ、いいか……じゃあけるぞ。沢・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であるとしていることである。 それが明白なる誤謬、むしろ明白なる虚偽であることは、ここに詳しく述べるまでもない。我々日本の青・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・いやそろそろ政略が要るようになった。妙だぞ。妙だぞ。ようやく無事に苦しみかけたところへ、いい慰みが沸いて来た。充分うまくやって見ようぞ。ここがおれの技倆だ。はて事が面白くなって来たな。 光代は高がひいひいたもれ。ただ一撃ちに羽翼締めだ。・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・企は失敗して、彼らは擒えられ、さばかれ、十二名は政略のために死一等を減ぜられ、重立たる余の十二名は天の恩寵によって立派に絞台の露と消えた。十二名――諸君、今一人、土佐で亡くなった多分自殺した幸徳の母君あるを忘れてはならぬ。 かくのごとく・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・導き、かつまた、その外面も文明の体裁に不似合なればとて、廃刀の命を下したるが如く、政治上に断行して一時に人心を左右するは劇薬を用いて救急の療法を施すものに等しく、はなはだ至当なりといえども、この救急の政略を施すに、かねてまた、これを教育の組・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・ところが、その時代の政略にしたがって実父はその娘の良人と不和に到ったら娘を強いてもとり戻して、さらに二度目の良人であるその城主に嫁しずけた。不幸にもまたここに実父の側との戦いがはじまって、良人の軍は敗れたので、夫人の実父は前例どおり、また夫・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・私には包むべき政略的の行為もなければ、隠すべき犯罪の関係もない。私が恋をしようとしまいと、泣こうと笑おうと、誰もそんなことを気にかける人はありはしない。私の一番心にかかることは出来る限り正確に私というものを表わしたいことである」と。 こ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・が如何に真心なき政略であるかという実例も、公然とあらわにされて来ている。やはり立会演説の公開の席上で、社会主義即時断行と天皇制護持と、決して両立し得ない二つのことを並べて綱領としている一政党の立候補者、執行委員の某氏は、聴衆の面前で、個人と・・・ 宮本百合子 「矛盾とその害毒」
・・・結婚はすっかり政略結婚になって、夫婦の情愛とか、母子の愛情は無慙に蹂み躙られた。兄や父親の政治的な利害に従って、いじらしい婦人達は、あの城主からこの城主へと、夫を換えさせられることが屡々珍しくなかったし、愛する男の子は敵方の血すじを保ってい・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・勿論政略上已むことを得ない場合のあることは、僕だって認めています。」「ロシアのような国では盛んに遣っているというじゃないか」と、山田が云った。「そりゃあ caviar にする」と、犬塚が厭らしい笑い顔をした。これも局長に聞いた詞であ・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫