・・・意気地がないから親一人妹一人養うことも出来ずさ、下宿屋家業までさして置いて忠孝の道を児童に教えるなんて、随分変った先生様もあるものだね。然しお政さんなんぞは幸福さ、いくら親に不孝な男でも女房だけは可愛がるからね。お光などのように兵隊の気嫌ま・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・そして姉も弟も初めのうちは小学校に出していたのが、二人とも何一つ学び得ず、いくら教師が骨を折ってもむだで、到底ほかの生徒といっしょに教えることはできず、いたずらに他の腕白生徒の嘲弄の道具になるばかりですから、かえって気の毒に思って退学をさし・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・併し此代稽古の男は兎角自分に出鱈目を教える男だったから、それに罵られたのが残念で残念で堪らなかった為め忘れずに居ります。 九歳のとき彼のお千代さんという方が女子師範学校の教師になられたそうで、手習いは御教えにならぬことになりました。で、・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・旅だ――五月が自分に教えるのである。 いろいろなことを憶出すのもこの月だ。 ある日のことであった。丁度自分の休暇に当ったので、事務の引続を当番の同僚に頼むつもりで書いて置いた気圧の表を念の為に読んで見た。天気、晴。気温、上昇。雲形、・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・もまた思いもよらないことを私に教えるかも知れない。…… 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・女の人の教える方を見れば、青松葉をしたたか背負った頬冠りの男が、とことこと畦道を通る。間もなくこちらを背にして、道について斜に折れると思うと、その男はもはや、ただ大きな松葉の塊へ股引の足が二本下ったばかりのものとなって動いている。松葉の色が・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・僕だって、教えるほど知ってやしない。教えながら覚えるという奴さ。そこは、ごまかしが、きくんだけども、幇間の役までさせられて、」ふっと口を噤んだ。 第三回 茶店の老婆が、親子どんぶりを一つ、盆に捧げて持って来た。・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ などとそんな気持で、ふらふらここへ来るのかね、もし、そうだったら、僕では、だめだ、君に何んにもいいこと教えることができない。だいいち、いま僕自身あぶないのだ。僕は、頭がわるいから、なんにもわからないのだ。ただ、僕はいままで、ばかな失敗ばか・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・のみならず講義講演によって人に教えるという事に興味と熱心をもっているそうである。それで学生や学者に対してのみならず、一般人の知識慾を満足させる事を煩わしく思わない。例えば労働者の集団に対しても、分りやすい講演をやって聞かせるとある。そんな風・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・このことは映画俳優の演芸が舞台俳優のそれと全くちがった基礎の上に立つべきものだということをわれわれに教えるものではないかと思われる。ロシア映画で教養も何もない農夫が最も光ったスターとして現われ、アメリカ映画でも土人のほうが白人の映画俳優の下・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫