・・・故に父母の子を教訓するは甚だ嘉し。父母たる者の義務として遁れられぬ役目なれども、独り女子に限りて其教訓を重んずるとは抑も立論の根拠を誤りたるものと言う可し。世間或は説あり、父母の教訓は子供の為めに良薬の如し、苟も其教の趣意にして美なれば、女・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ 芭蕉は一定の真理を言わずして時に随い人により思い思いの教訓をなすを常とす。その洒堂を誨えたるもこれらの佳作を斥けたるにはあらで、むしろその濫用を誡めたるにやあらん。許六が「発句は取合せものなり」というに対して芭蕉が「これほど仕よきこと・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
一 第二次ヨーロッパ大戦は、私たち現世紀の人間にさまざまの深刻な教訓をあたえた。そのもっとも根本的な点は国際間の複雑な利害矛盾の調整は、封建的で、また資本主義的な強圧であるナチズムやファシズムでは・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・関係の面で論議をかもされつつも強い勢力をもって一部に実行されていたコロンタイズム類似の行動と照らしあわせて今日の目で見ると、その頃の運動の歴史がもっていた小市民的な制約性の性質がまざまざとわかり、深い教訓を我々に語るものであると思う。 ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・半官的なギャラップ博士の米国世論調査所の示したこのたびの失敗は、世界の世論調査法に大きい教訓となった。ギャラップの世論調査所員の大多数は女子で、アンケートの送りさきは彼女たちの任意とされていた。彼女たちが労働者や下層民をさけたために、民主党・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・ ここに集められている作品と作家研究は、どれもそこから、明日のためにうけとるべき教訓と価値とを発見しようとして書かれた。従って、それぞれの作品のもっている歴史的な、また階級的な限界というものも、はっきり知ろうと努力されている。 戦争・・・ 宮本百合子 「あとがき(『作家と作品』)」
・・・あれがわたくしの一生の教訓になりましたのでござりました。もうお暇を致します。「泊まって行かんか。己の内は戦地と同じで御馳走はないが。」「奥様はいらっしゃりませんか。」「妻は此間死んだ。」「へえ。それはどうも。」「島村が知・・・ 森鴎外 「鶏」
・・・いかにも昨夜忍藻に教訓していたところなどはあっぱれ豪気なように見えたが、これとてその身は木でもなければ石でもない。今朝忍藻がいなくなッた心配の矢先へこの凶音が伝わッたのにはさすが心を乱されてしまッた。今はその口から愚痴ばかりが出立する。・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・『辰敬家訓』として述べるものも、実はこの父の教訓にほかならない。辰敬自身は、青年時代以来諸国を放浪して歩いたが、その間に、「力を以て事をなすは下の人、心を働かして心にて事をなすは上の人」と悟ったのである。悟ってみると父の教訓がしみじみと思い・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・しかしそのなかに「とにかく余は今度我が子のあえなき死ということによりて、多大の教訓を得た。名利を思うて煩悶絶え間なき心の上に、一杓の冷水を浴びせかけられたような心持ちがして、一種の涼味を感ずるとともに、心の奥より秋の日のような清く温かき光が・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫