・・・芸術家というものの立場より言うならば第一の種類の人は最も敬うべき純粋な芸術家であり、第二の種類の人は、芸術家としては、いわゆる素人芸術家をもって目さるべきものであり、第三の種類の人は悪い意味の大道芸人とえらぶ所がない人である。 ところで・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・ 立花は言葉をかけようと思ったけれども、我を敬うことかくのごときは、打ちつけにものをいうべき次第であるまい。 そこで、卓子に肱をつくと、青く鮮麗に燦然として、異彩を放つ手釦の宝石を便に、ともかくも駒を並べて見た。 王将、金銀、桂・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・武家の娘は、かえって男を敬うものだ。」先生は、真面目である。「それよりも、どうだろう。大隅の頭はだいぶ禿げ上っていたようだが。」やっぱり、その事が先生にとっても、まず第一に気がかりになる様子であった。まことに、海よりも深きは師の恩である。私・・・ 太宰治 「佳日」
・・・また夫を主人として敬うべしというは、女子より言を立てて一方に偏するが故に不都合なるのみ。けだし主人とするとは敬礼の極度を表したるものなれば、男子の方より婦人に対し、夫婦の間は必ず敬礼を尽し、ただにその内君を親愛するのみならず、時としては君に・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・私共は其を畏れ敬う心だけは、どうか失い度くないと希う。 人類の生活のより深正な幸福の希望や、正義へ向いての憧憬は時代から時代を貫いているのだ。三稜鏡は、七色を反射する。けれども太陽は、単に赤色に輝くものでなく、又紫に光るものでもない事を・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
出典:青空文庫