・・・啻だ数量ばかりでなく優品をも収得したので、天居は追ては蒐集した椿岳の画集を出版する計画があったが、この計画が実現されない中に、惜い哉、この比類のない蒐集は大震災で烏有に帰した。天居が去年の夏、複製して暑中見舞として知人に頒った椿岳の画短冊は・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ それでもし各種母音に相当する口腔の形状大小を規定する若干の数量が定められれば、歌の口調というものはこれらの量を時間の函数として与える数個の方程式で与えられることになるので、従って口調というものの科学的研究がとにかくも可能になる訳である・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・さらにもっともっと複雑な例を取って、たとえば人がその愛する人の死に対していかに感じいかに反応しいかに行動するかという場合になると、もはや決定さるべき情緒や行為を数量的に定めることもできないのみならず、これに連関する決定因子やその条件のどれ一・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・これほどに有力な感官の分析総合能力が捨てて顧みられない一つの理由は、その与えるデータが数量的でないためである。しかし、数量的のデータを与える事が必ずしも不可能とは思われない。適当なスケールさえ作ればこれは可能になる。たとえばピアノの鍵盤や、・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・場合によっては数の大きいほどいいこともありまた場合によっては少ないほどすぐれていることもあるが、とにかく一線の上に連続的に配列された数量の尺度によって優劣をきめるのである。こうしなければ優劣は単義的に決定しない。従ってレコードは設定されず、・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・いかなる測定をなす際にも直接間接に定め得る数量の最後の桁には偶然が随伴す。多くの世人は精密科学の語に誤られてこの点を忘却するを常とす。 一層偶然の著しき場合は、例えば鉛筆を尖端にて直立せしめ、これがいずれの方向に倒るるかという場合、ある・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ この颱風は日本で気象観測始まって以来、器械で数量的に観測されたものの中では最も顕著なものであったのみならず、それがたまたま日本の文化的施設の集中地域を通過して、云わば颱風としての最も能率の好い破壊作業を遂行した。それからもう一つには、・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・すなわち系の複雑さが完全に複雑になれば統計という事が成り立ち、公算というものが数量的に確定したものになる。そして系の変化はその状態の公算の大なるほうへ大なるほうへと進むという事が、すなわちエントロピーの増大という事と同義になるのである。・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ 水産生物の種類と数量の豊富なことはおそらく世界の他のいかなる部分にもたいしてひけを取らないであろうと思われる。これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・市中の目ぼしい建物に片ッぱしから投げ込んであるくために必要な爆弾の数量や人手を考えてみたら、少なくも山の手の貧しい屋敷町の人々の軒並に破裂しでもするような過度の恐慌を惹き起さなくてもすむ事である。 尤も、非常な天災などの場合にそんな気楽・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
出典:青空文庫