・・・この開攘の二家ははじめより元素を殊にする者なれば、理において決して抱合すべきに非ざれども、当時の事情紛紜に際し、幕府に敵するの目的をもって、暫時の間、異種の二元素、たがいに相投じたることあり。これを思えば、今の民権論者が不平を鳴らすその間に・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 右の如く、我が国上等社会の人は、無稽の幽冥説に惑溺すること、はなはだ少なしといえども、その、これに惑溺せざるは、ただ一時仏者に敵するの熱心に乗じたるものにして、天然の真理原則を推究したる知識の働に非ざるがゆえに、幽冥説に向って淡白・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・然るに今その敵に敵するは、無益なり、無謀なり、国家の損亡なりとて、専ら平和無事に誘導したるその士人を率いて、一朝敵国外患の至るに当り、能くその士気を振うて極端の苦辛に堪えしむるの術あるべきや。内に瘠我慢なきものは外に対してもまた然らざるを得・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・なんだかそれが自分に対してよそよそしい、自分に敵する物の物音らしく思われる。どうも大勢の人が段々自分の身に近寄って来はしないかというような心持になる。闇が具体的になって来るような心持になる。そこで慌ただしげにマッチを一本摩った。そして自分の・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫