・・・てれかくしに袂から敷島を出して火をつけた。 だが、彼はそこでへまを踏むわけには行かなかった。それが誰のものだろうが、そのバスケットは自分のものでなければ収拾する事が出来なかった。「だって兄さん。そりゃ俺んだよ。踏んづけちゃ困るね・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・ほんとうにいろいろご馳走学生は鞄から敷島を一つとキャラメルの小さな箱を出して置いた。おみちは顔を赤くしてそれを押し戻した。学生はさっさと出て行った。(なあんだ。あと姥石まで煙草売るどこなぃも。ぼかげで置いで来おみちは急いで草履をつっかけ・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・面に黒板のある警官教室みたいなところを通りがかると、沢山並んでいる床几の一つに娘さんがうなだれて浅く腰かけ、わきに大島の折目だった着物を着た小商人風の父親が落着かなげにそっぽを向きながらよそ行きらしく敷島をふかしている。 父と娘とがそれ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 山田が何か思い出したという様子で云った。「こん度の連中は死刑になりたがっているから、死刑にしない方が好いというものがあるそうだが、どういうものだろう。」 敷島の烟を吹いていた犬塚が、「そうさ、死にたがっているそうだから、監獄で旨い・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫