・・・更紗の掻巻を撥ねて、毛布をかけた敷布団の上に胡座を掻いたのは主の新造で、年は三十前後、キリリとした目鼻立ちの、どこかイナセには出来ていても、真青な色をして、少し腫みのある顔を悲しそうに蹙めながら、そっと腰の周囲をさすっているところは男前も何・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ 彼は返えす筈だった二反を風呂敷包から出して、自分の敷布団の下にかくした。出したあとの風呂敷包は、丁寧に元のままに結んだ。 妻が彼の知らない金を持っていようとは考えられなかった。と云って、如何に単純でたくらみがないとは云え、窃んだ物・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・ お熊は敷布団の下にあッた紙入れと煙草入れとを取り上げ、盆を片手に持ッて廊下へ出た。善吉はすでに廊下に見えず、かなたの吉里の室の障子が明け放してあった。「早くお臥みなさいまし。お寒うございますよ」と、吉里の室に入ッて来たお熊は、次の・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・普通の敷布団がのっかっているの。この次の小説でマトレスは出来るだろうという次第です。 ドーデエの小さいものが面白かったそうで私はそのお下りをきょうからよみはじめます。私のよんだのは「サフォ」やグリグリというお守りを崇拝しつつひどい寄宿舎・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ソヴェトの三等夜行列車では、一組一ルーブル前後で敷布団、毛布、枕が借りられるのだ。しかし、若い女は借りない。二人の日本女は革紐を解いて毛布と布団をとり出した。色の黒い方の日本女は毛布と書類入鞄とを先へ投げあげといてから、傍の柱にうちつ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫