・・・ちょうど文法というものを中学の生徒などが習いますが、文法を習ったからといってそれがため会話が上手にはなれず、文法は不得意でも話は達者にもやれる通弁などいうものもあって、その方が実際役に立つと同じ事です。同じような例ですが歌を作る規則を知って・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・空間自存の概念が起るのはやはり発達した抽象を認めて実在と見做した結果にほかならぬ。文法と云うものは言葉の排列上における相互の関係を法則にまとめたものであるが、小児は文法があって、それから文章があるように考えている。文法は文章があって、言葉が・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・この時また文法書を学ぶ。文法を知らざれば、書を読みて、その義理を解する事、能わず。我が言葉をもって我が意を達するに足らず。言葉、意を達するに足らざるものは、唖子に異ならず。第三、地理書 地球の運転、山野河海の区別、世界万国の・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・社中に入り、先ず西洋のいろはを覚え、理学初歩か、または文法書を読む。この間、三ヶ月を費す。三ヶ月終りて、地理書または窮理書一冊を読む。この間、六ヶ月を費す。六ヶ月終りて、歴史一冊を読む。この間、また、六ヶ月を費す。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・五十韻は日本語を活用する文法の基にして、いろははただ言葉の符牒のみ。 この符牒をさえ心得れば、たといむつかしき文法は知らずとも、日用の便利を達するに差支えはなかるべし。文法の学問、はなはだ大切なりといえども、今日の貧民社会、まず日用を便・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 最も奇なるはをちこちをちこちと打つ砧かなの句の字は十六にして調子は五七五調に吟じ得べきがごとき。文法 漢語、俗語、雅語のことは前にも言えり。その他動詞、助動詞、形容詞にも蕪村ならでは用いざる語あり。・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・治るまでに、咲枝やおなかの赤チャン、泰子、国男さん、寿江子、みんなが揃いも揃って一つの時期を通って、私の医療につれて何かそれぞれ+を得て、国男さんは神経衰弱が治ったりして本当に禍福あざなえる繩ですね。文法書のことは承知致しました。たちばなの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・生れるという主格の受動性を示す文法上での表現は、とりも直さず我々人間が歴代、子として親を選択することも出来ず、誕生の環境を予測することも出来ず、実に受け身に生まれたのであるという深刻な現実における関係を語っている。而も、一旦生まれた以上、我・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・媒介物である文字さえ文法的に正確に捕えたら、その作物の全リズムまで捕えたとは決していえないと私は思う。特定の波長に対しては特定の検波器がある。電波に関するこの中学生的常識は、文学における原作者と翻訳者との関係にも極めて自然に適用される。すな・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ 私の今の状態から云えば、この問いの中で書かないと云われているところは既に書かなかったという、文法の上では過去の形でされる方がふさわしいし、又全く小説を書かなかったというわけでもないが、質問そのものは面白く思った。 或る作家が、書く・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
出典:青空文庫