・・・ 自動車は、また、八寸置きに布片の目じるしをくゝりつけた田植縄の代りに木製の新案特許の枠を持って来た。撥ね釣瓶はポンプになった。浮塵子がわくと白熱燈が使われた。石油を撒き、石油ランプをともし、子供が脛まで、くさった水苔くさい田の中へ脚を・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・朝、眼をさますとすぐに彼の新案のこぶしでもって枕元の煙草盆をひとつ殴った。まちを歩きながら、みちみちの土塀や板塀を殴った。居酒屋の卓を殴った。家の炉縁を殴った。この修行に一年を費やした。煙草盆がばらばらにこわれ土塀や板塀に無数の大小の穴があ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・それにしても日本の学者の論文が外国に紹介されるときに別人の仕事が同一人の仕事のように取扱われるような、よくある混同を避けるにはこういう新案もいいかもしれないのである。もう一歩進んで姓名の代りに囚人のように三一六五八九二四といったような番号を・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・などを製出した話、蓮の葉で味噌を包む新案、「行水舟」「刻昆布」「ちやんぬりの油土器」「しぼみ形の莨入、外の人のせぬ事」で三万両を儲けた話には「いかにはんじやうの所なればとて常のはたらきにて長者には成がたし」などと云っている。どんな行きつまっ・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・婦人の地位を高尚にするの新案は、あたかも我が国未曾有の家屋を新築するものにして、我輩固より意見を同じうするのみならず、敢えて発起者中の一部分を以て自ら居る者なれども、満目焔々たる大火の消防に忙わしくして、なお未だ新築に遑あらず。故に今後は、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫