・・・ 研究室へ帰って新着の雑誌を読んで行くと「音の触感」に関する研究の報告がある。蓄音機のレコードの発する音響をすっかり殺してしまって、その上に耳を完全にふさいで、ただ指先の触感だけで楽音の振動をどれだけ判別できるかということを研究したもの・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・とにかくそれまでの間に、森先生に御迷惑をかけるような失態を演じ出さないようにと思ってわたくしは毎週一、二回仏蘭西人某氏の家へ往って新着の新聞を読み、つとめて新しい風聞に接するようにしていた。三年の歳月は早くも過ぎ、いつか五年六年目となった。・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・表の新着書籍を見わたし終ると、私は、内へ入って行った。丁度、燕が去年巣をかけた家の軒先を、又今年もついとくぐるような親しさで。 台から台へと廻って歩き、懐が許せば一箇の茶色紙包が、私の腕の下に抱え込まれるだろう。けれども、その楽しい収穫・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・ 松崎はちらちらジェルテルスキーがタイプライターで打ちかけている草稿を覗いたり、積みかさねてある新着の露字新聞を引き出して目を通したりしていたが、「ああ、近頃何でもルイコフ君の細君が貴方のところへ行っているそうじゃありませんか」・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫