・・・比較的に見るとき、レディにはそのナイーヴさ、素純さ、処女性の新鮮さにおいて、玄人にはとうてい見出されない肌ざわりがあるのだ。「良家の娘」という語は平凡なひびきしか持たぬが、そこにいうにいわれぬ相異があるのだ。一度媚びを売ることを余儀なくされ・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・勿論あれが同じあのようなものにしても生硬粗雑で言葉づかいも何もこなれて居ないものでありましたならば、後の同路を辿るものに取って障礙となるとも利益とはなっていなかったでしょうが、立意は新鮮で、用意は周到であった其一段が甚だ宜しくって腐気と厭味・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・もっと自分を新鮮に、そして簡素にすることは無いか。そのために、彼は他にもあった教師の口を断り、すこし土でも掘って見ようと思って、わざわざこの寂しい田舎へ入って来た。「高瀬さん、一体貴方はお幾つなんですか――」 桜井先生の奥さんは・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・朝早く魚河岸の方へ買出しに行った広瀬さんも金太郎もまだ戻って見えなかったが、新鮮な魚類を載せた車だけは威勢よく先に帰って来て、丁度お三輪が新七と一緒に出掛けようとするところへ着いた。「広瀬さんにもよろしく。金さんにもよろしく」 と別・・・ 島崎藤村 「食堂」
・・・そのムキなところが、新鮮なのである。書生劇みたいな粗雑なところもある。学芸会みたいな稚拙なところもある。けれども、なんだか、ムキである。あの映画には、いままでの日本の映画に無かった清潔な新しさがあった。いやらしい「芸術的」な装飾をつい失念し・・・ 太宰治 「芸術ぎらい」
・・・早朝、練兵場の草原を踏みわけて行くと、草の香も新鮮で、朝露が足をぬらして冷や冷やして、心が豁然とひらけ、ひとりで笑い出したくなるくらいである、という家内の話であった。私は暑熱をいい申しわけにして、仕事を怠けていて、退屈していた時であったから・・・ 太宰治 「美少女」
・・・景色が好いの、空気が新鮮だのと云うのは言いわけで、実は外の楽しみの出来ない土地へ行っただけである。こんな風で休暇は立ってしまった。そして存外物入りは少かった。 夏もいつか過ぎて、秋の雨が降り出した。ドリスはまた毎日ウィインへ出る。面白い・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・けれど新鮮な空気がある、日の光がある、雲がある、山がある、――すさまじい声が急に耳に入ったので、立ち留まってかれはそっちを見た。さっきの汽車がまだあそこにいる。釜のない煙筒のない長い汽車を、支那苦力が幾百人となく寄ってたかって、ちょうど蟻が・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・あまりにも複雑な機巧に満ちたこの大曲に盛りつぶされ疲らされたすぐあとであったので、この単純なしかし新鮮なフィルムの音楽がいっそうおもしろく聞かれたのかもしれない。そうしてその翌晩はまた満州から放送のラジオで奉天の女学生の唱歌というのを聞いた・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・はいかにも明るく新鮮である。この目立った差別には、写真レンズやフィルムの光学的化学的な技術の差から来るものもないとは言われないが、しかしなんといっても国民性の相違から来る根本的なものがすべてを支配し決定しているとしか思われない。このアメリカ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
出典:青空文庫