・・・先ず青空を十里四方位の大さに截って、それを圧搾して石にするんだ。石よりも堅くて青くて透徹るよ』『それが何だい?』『それを積み重ねて、高い、高い、無際限に高い壁を築き上げたもんだ、然も二列にだ、壁と壁との間が唯五間位しかないが、無際限・・・ 石川啄木 「火星の芝居」
・・・九宮方位の談、八門遁甲の説、三命の占、九星の卜、皆それに続いている。それだけの談さえもなかなか尽きるものではない。一より九に至るの数を九格正方内に一つずつ置いて、縦線、横線、対角線、どう数えても十五になる。一より十六を正方格内に置いて縦線、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ しかしまたこの事から、とんぼの止まっているときの体向は太陽の方位には無関係であるという結論を下したとしたら、それはまた第二の早合点という錯誤を犯すことになるであろう。この点を確かめるには、実験室内でできるだけ気流をならしておいて、その・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・いずれも三尺あるかなしかの開戸の傍に、一尺四方位の窓が適度の高さにあけてある。適度の高さというのは、路地を歩く男の目と、窓の中の燈火に照らされている女の顔との距離をいうのである。窓際に立寄ると、少し腰を屈めなければ、女の顔は見られないが、歩・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・そしてこの魔法のような不思議の変化は、単に私が道に迷って、方位を錯覚したことにだけ原因している。いつも町の南はずれにあるポストが、反対の入口である北に見えた。いつもは左側にある街路の町家が、逆に右側の方へ移ってしまった。そしてただこの変化が・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
出典:青空文庫