・・・彼は、リザ・リーブスカヤのことを思い出して、どぎまぎして「胸膜炎で施療に来て居るからそれで知っとるんです。」「そう弁解しなくたって君、何も悪いとは云ってやしないよ。」 曹長は笑い出した。「そうですか。」 慌てゝはいけないと思・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ わたくしが死刑を期待して監獄にいるのは、瀕死の病人が、施療院にいるのと同じである。病苦がはなはだしくないだけ、さらに楽かも知れぬ。 これはわたくしの性の獰猛なのによるか。痴愚なるによるか。自分にはわからぬが、しかし、今のわたくしは・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 私が死刑を期待して監獄に居るのは、瀕死の病人が施療院に居るのと同じである、病苦の甚しくないだけ更に楽かも知れぬ。 これ私の性の獰猛なるに由る乎、癡愚なるに由る乎、自分には解らぬが、併し今の私に人間の生死、殊に死刑に就ては、粗ぼ左の・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・ つぎには、これは築地の、市の施療院でのことですが、その病院では、当番の鈴木、上与那原両海軍軍医少佐以下の沈着なしょちで、火が来るまえに、看護婦たちにたん架をかつがせなどして、すべての患者を裏手のうめ立て地なぞへうつしておいたのですが、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・ヴェルレエヌ氏の施療病院に於ける最後の詩句、「医者をののしる歌。」を読み、思わず哄笑した五年まえのおのれを恥じる。厳粛の意味で、医師の瞳の奥をさぐれ! 私営脳病院のトリック。一、この病棟、患者十五名ほどの中、三分の二は、ふつうの・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・「蟹工船」「太陽のない街」「三・一五」「鉄の話」「キャラメル工場から」「施療室にて」などが生れ、プロレタリア文学の理論は、当時国際的な革命的文学運動の課題となっていた唯物弁証法的創作方法の問題、世界観の問題、前衛の文学の問題などをとりあげた・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・彼女よりもひと昔まえの一九二〇年代の後半にアナーキズムの渾沌の裡から生れ出た平林たい子が、「施療室にて」から今日までに移って来た足どり。「放浪記」の林芙美子がルンペン・プロレタリアート少女の境地から「晩菊」に到った歩みかた。はげしい歴史の波・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
出典:青空文庫