・・・地球上に在るおのおのの集団――国――が、現在どんな有機的関係を持っているか、又、どう云う運命の下に、日夜、同じ太陽を廻っているか。それ等を、わが胸で痛感する者は、決して未だ多過ぎることは無いのである。 近頃、漸々一体の注意を呼び始めた、・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・非現実のヒロイズムで目のくらむような照明を日夜うけつづけて育った。自分としての判断。その人としての考えかた。社会生活におけるそのことの必然を認めることさえ罪悪とした軍部の圧力は、若い精神に、この苛烈な運命に面して自分としてのすべてに拘泥する・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・と詩にうたったその日夜の砧は、宋国のどんな男がうっただろう。それはみんな婦人たちのうつ砧の音であって、数千年の間、人類の女性は、誰がために、何を、どういう事情のもとに紡ぎ、織り、染め、そして縫って来たのだろう。今日こそ私たちは、はっきり自分・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・ 阿部彌一右衛門は、人間の性格的相剋を主従という封建の垣のうちに日夜まむきに犇めきとおして遂に、悲劇的終焉を迎えたが、佐橋は君主である家康が己に気を許さぬ本心を知ったとき、恐ろしく冷やかな判断で、そのように狭くやがては己が身の上に落ちか・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・私生児を育て抜いた所に重点があるよりは、むしろ社会的の束縛から愛する者との間の子を、私生児としての形でしか持てなかった事、更にその子を育てる上に日夜世間の古い型の考えと戦わねばならなかった事、ここに作者は人間性への広い訴えをこめていたのでは・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・この一事を、深く深く思ったとき、私たちの胸に湧く自分への激励、自分への鞭撻、自分への批判こそ一人一人の女を育て培いながら、女全体の歴史の海岸線を小波が巖を砂にして来たように変えてゆく日夜の秘められた力であると思う。〔一九四〇年六月〕・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・私が何とかして会いたいと留置場の中で日夜願っている同志たちとはこういう細工をしてまで会わせず、会わせる者はと云えば、帝国主義官憲とグルになって、もう「コップ」の仕事はしないと云えなどとよくも恥しらずにすすめる奴らです。私はプロレタリア婦人作・・・ 宮本百合子 「逆襲をもって私は戦います」
・・・このころ、この街にある聯隊の入口をめがけて旗や提灯の列が日夜激しくつめよせた。日露戦争がしだいに高潮して来ていたのである。疏水の両側の角刈にされた枳殻の厚い垣には、黄色な実が成ってその実をもぎ取る手に棘が刺さった。枳殻のまばらな裾から帆をあ・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・あるいは庭に咲く日向葵、日夜我らの親しむ親や子供の顔。あるいは我らが散歩の途上常に見慣れた景色。あるいは我々人間の持っているこの肉体。――すべて我々に最も近い存在物が、彼らに対して、「そこに在ることの不思議さ」を、「その測り知られぬ美しさ」・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・私の心は日夜休むことがない。私は自分の内に醜く弱くまた悪いものを多量に認める。私は自己鍛錬によってこれらのものを焼き尽くさねばならぬ。しかし同時に私は自分の内に好いものをも認める。私はそれが成長することを祈り、また自己鞭撻によってその成長を・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
出典:青空文庫