・・・戦争や戦災で家を失い、又は夫を失って、実家へ子供を連れて帰って来た女の兄弟達の日暮しをみて、若い人々は、女の一生というものをどう思って眺めるだろう。長男の家族的な負担の重さは、長男という身分に生れあわせた青年達の自由さと身軽さと自分で選ぶ人・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・そのような日暮しから受ける心持、そのような日暮しに向ってゆく自分の心の動きよう、そういう生活万端の在りようと自分のつくる文学のありよう、そういう関係が深く感情の底にまでふれて探られ、見直され、整理され、そこで初めて人間精神の経つつある歴史と・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・一人の作家が、時流におされて、或る程度日常生活を世俗的に膨脹させてしまうと、そのふくらんだ日暮しを、ころがしてゆくために、執筆は稼ぎとならざるを得ず、稼ぎともなれば、注文に敏感ならざるを得ない。 戦時中、日本の文学者たちが示したおどろく・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・この小さい諷刺的な絵は、感覚的な効果をもって日本の下層階級生活の貧困と猥雑さとその日暮しの感じとを、傍観的に、だが強く表現していたのである。 私は「落花」を見ているうちに、池部氏がこの社会的感情を更に一歩すすめてその中にある発展的なモメ・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・アサは自分の身の上にかかって来る同じその事情のなかで、愛子の生きかたにもシゲの受動的な日暮しの態度にもあき足りず、困難をしのいで女に例の少い女文選としての技術を身につけ、同時に、女が働くのは嫁に行くまでだという勤労者の常識にさえ滲みこんでい・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・私たちは、毎日の胸に軽からざる日暮しの間で、人情を打ち破り、それを打ちひしぎ、強引に進んでゆく現実の姿をまざまざと観せられてはいないだろうか。私達の生活の間には、人情として実に忍びないが云々、と云って、人情を轢き過ぎてゆく現実の事実が頻々と・・・ 宮本百合子 「パァル・バックの作風その他」
・・・ 特に日本は若く而も早老な社会機構によって、ジャーナリズム内の理想主義と実利主義との紛糾は、呼吸荒い時代に揉まれて様々な内容がその日暮しに陥り達見を失う危険をもっていないとは云えない。 先頃、二晩つづいて東京に提灯行列のあった一夜、・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
・・・経済的にその日暮しであると共に精神的にもその日暮しに陥っている。他の一部の若い人々は全く山村のようにくよくよしずにさりとて現状に抗わず、僅かに自分の時間でせめては本だけでも読んだりして雨宿りでもしているように、現在の状態が通り過ぎることを傍・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・ 洗濯物をどっさり干しつらねるというような落付いた日暮しを失っていたひろ子は、がらんとした物干に置かれた、その風知草に、数日の間、熱心に水をやった。けれども、益々苦しさが激しく、しず心が失われてゆくにつれ、哀れな風知草までが苦しい夏の乾・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ もし、私の推察がひどく的をはずれていなければ、それをわれわれの日暮しで内容される具体的な部屋の問題として扱われた千葉亀雄氏の常識の着実さを今日の大多数の婦人がおかれている現実の社会的反映として私は一層面白く思うのである。〔一九三四年十・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
出典:青空文庫