・・・自分は俳人でもないからと一応断わってみたが、たってと言われるので万年筆でいいかげんの旧作一句をしたためて帳面を返した。すると今度はふろしきの中から一冊の仮りとじの小さな句集のようなものを取り出して自分の前に置いた。手に取って見るとそれは知名・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・わたくしが個人雑誌『花月』の誌上に、『かかでもの記』を掲げて文壇の経歴を述べたのは今より十五、六年以前であるが、初は『自作自評』と題して旧作の一篇ごとに執筆の来由を陳べ、これによって半面はおのずから自叙伝ともなるようにしたいと考えた。しかし・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・そこでケーテの未発表の木版画や「五十七歳の自画像」旧作「机の上にねむる」などが陳列された。ケーテ・コルヴィッツの画業が、ナチスのものでありえなかったということは、とりもなおさず、彼女の生涯と芸術が戦争に反対し、人民の窮乏に反対する世界のすべ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・其故、擱筆当時に見てさえも、最初の部分は、旧作の感があった。其後、全体を一纏めにする為にひどく時間をかけたし、印刷にかかってからも手間どり、今は事実上旧作になった。然し、この作品は自分の生活と密接な関係のあったものだし、作の上に年輪のように・・・ 宮本百合子 「序(『伸子』)」
・・・編輯後記を見たら、旧作「濃淡」に骨子を得云々とあり、作者もそのことを附記されている。 旧作が生憎手元にないので比較して作者の新たな意企や技術の上での試みを学ぶことが出来ないのは残念である。「新胎」について技術的な面で感じることは、現実の・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫