・・・然らばこの問題を逆にして試に東京の外観が遠からずして全く改革された暁には、如何なる方面、如何なる隠れた処に、旧日本の旧態が残されるかを想像して見るのも、皮肉な観察者には興味のないことではあるまい。実例は帝国劇場の建築だけが純西洋風に出来上り・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・被動的に隠居仰せつけられその外力によって、社会関係の一部が変えられる迄は、さながら、自分からの解決の方法はないように旧態にとどまっている。ここが作者の人生態度としてもなかなか面白い点であろうと思う。忠直卿は、昔の殿様としてはびっくりするくら・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 女学校が、本の生きた読みかた、使いかたを教えないことは旧態依然で、しかも個人個人として、本へのそういう薄情の培われる文化の傾きというものは、多くの考えさせるものを持っていると思う。〔一九三九年十二月〕・・・ 宮本百合子 「祖父の書斎」
・・・、大衆から与えられている輿論の支持を全面的に用いて、ナイチンゲールの官僚主義とのたたかいはつづけられていたが、シドニー・ハーバートが病いに倒れるとともに政治的な敗北が、役所方面での彼女の計画をほとんど旧態に戻してしまった。苦しい時がはじまっ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・新しい文学そのものが自身の未熟さを脱し切れないまま発育の方向をかえなければならなくなったのみならず、その文学の動きが継続していた十年の間、依然旧態にとどまって、集約的自我に対抗し、個的な自我を純文学の名において固守して来た作家たちも、本質的・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
出典:青空文庫