・・・日本が出兵していたころ、御用商人に早変りして、内地なら三円の石油を一と鑵十二円で売りつけた。一ちょうの豆腐を十五銭に勘定した。ロシア人の馬車を使って、五割の頭をはねた。女郎屋のおやじになった。森林の利権を買って、それをまた会社へ鞘を取って売・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・が今更、百姓をやめて商売人に早変りをすることも出来なければ、醤油屋の番頭になる訳にも行かない。しかし息子を、自分がたどって来たような不利な立場に陥入れるのは、彼れには忍びないことだった。 二人の子供の中で、姉は、去年隣村へ嫁づけた。あと・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・小作人は、皆な豚飼いに早替りしていた。 たゞ、小作地以外に、自分の田畑を持っている者だけが、そこへ麦を蒔いていた。それが今では、三尺ばかりに伸びて穂をはらんでいる。谷間から丘にかけて一帯に耕地が固くなって荒れるがまゝにされている中に、そ・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・しかし考巧忠実な店員に接し掌をさすように求める品物に関する光明を授けられると悲観が楽観に早変わりをする。現代の日本がやはりたのもしく見えて来ると同時に眼前の書籍を知らぬ小店員を気の毒に思うのである。 ドイツのある書店に或る書物を注文した・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・一片の形容詞が何時の間にか人生観と早変りをするのは、これ何とも以て不思議の至りさ。 いや、何時のまにか私も大気焔を吐いて了って。先ずここらで御免を蒙ろう。 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
出典:青空文庫