・・・……… ――――――――――――――――――――――――― 保吉は明後日の月曜日に必ずこの十円札を粟野さんに返そうと決心した。もう一度念のために繰り返せば、正にこの一枚の十円札である。と言うのは他意のある訣ではな・・・ 芥川竜之介 「十円札」
・・・到底起きる気がしないから、横になったまま、いろいろ話していると、彼が三分ばかりのびた髭の先をつまみながら、僕は明日か明後日御嶽へ論文を書きに行くよと云った。どうせ蔵六の事だから僕がよんだってわかるようなものは書くまいと思って、またカントかと・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・と、一時のがれの慰めを云いますと、お敏はようやく涙をおさめて、新蔵の膝を離れましたが、それでもまだ潤み声で、「それは長い間でしたら、どうにかならない事もございますまいが、明後日の夜はまた家の御婆さんが、神を下すと云って居りましたもの。もしそ・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・「今日明日とみっちり刈れば明後日は早じまいの刈り上げになる。刈り上げの祝いは何がよかろ、省作お前は無論餅だなア」 そういうのは兄だ。省作はにこり笑ったまま何とも言わぬうち、「餅よりは鮓にするさ。こないだ餅を一度やったもの、今度は・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ウ書イタママデ電車ニ飛乗リマシタノデ、今日マデ机ノ上ニ逗留シテオリマシタ、昨夜帰宅イタシマシタバカリデ今マタ東京へ立チマスノデ書直スヒマガアリマセヌ、ナゼソンナニアワテルカトオ思召シマショウガ、ソレハ明後日アタリノ新聞広告ニ出マス件ト、妹ノ・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・が、私はそれよりも、沖に碇泊した内国通いの郵船がけたたましい汽笛を鳴らして、淡い煙を残しながらだんだん遠ざかって行くのを見やって、ああ、自分もあの船に乗ったら、明後日あたりはもう故郷の土を踏んでいるのだと思うと、意気地なく涙が零れた。海から・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・「え、それは霊岸島の宿屋ですが……こうと、明日は午前何だから……阿母さん、明日夕方か、それとも明後日のお午過ぎには私が向うへ行きますからね、何とか返事を聞いて、帰りにお宅へ廻りましょう」 四 金之助の泊っているの・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・ ……これで明日明後日となったら――ええ思遣られる。今だって些ともこうしていたくはないけれど、こう草臥ては退くにも退かれぬ。少し休息したらまた旧処へ戻ろう。幸いと風を後にしているから、臭気は前方へ持って行こうというもの。 全然力が脱けて・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ 明日か明後日、弟は出てくることになっている。あと十日と迫ったおせいの身体には容易ならぬ冒険なんだが、産婆も医者もむろん反対なんだが、弟につれさせて仙台へやっちまう。それから自分は放浪の旅に出る。 仙台行きには、おせいもむろん反対だ・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・それにまた、明後日の朝彼が発つのだとすると、これきり当分会えないことになる……そうした気持も手伝っていたのだ。そしてお互いにもはや言い合うようなことも尽きて、身体を横にして、互いに顰め面をしていたのだ。 そこへ土井がやってきた。彼はむず・・・ 葛西善蔵 「遁走」
出典:青空文庫