・・・と或る席上で故人自ら明言したのがその有力なる理由の一つであろう。が、文学には果して常に必ず遊戯的分子を伴うものであろう乎。およそ文学に限らず、如何なる職業でも学術でも既に興味を以て従う以上はソコに必ず快楽を伴う。この快楽を目して遊戯的分子と・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・とばかりで明言しなかった。が、「一見して気象に惚れ込んだ、共に人生を語るに足ると信じたのだ、」と深く思込んだ気色だった。 折々――というよりは煩さく、多分下宿屋の女中であったろう、十二階下とでもいいそうな真白に塗り立てた女が現われて来て・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・ 近来はアイコノクラストが到る処に跋扈しておるから、先輩たる坪内君に対して公然明言するものはあるまいが、内々では坪内君の文学は自分等とは交渉しないナドトいってるものもあるかも知れぬが、坪内君が新らしい文学の道を開いてくれなかったなら今日・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・自分が先生に向て自分の希望を明言した時に梅子は隣室で聞いていたに違いない、もし自分の希望を全く否む心なら自分が帰る時あんなに自分を慰める筈はない……」「梅子は自分を愛している、少くとも自分が梅子を恋ていることを不快には思っていない」との・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・と。 けれども西国立志編(スマイルスの自助論を読んだものは洋の東西を問わず幾百万人あるかしれないが、桂正作のように、「余を作りしものはこの書なり」と明言しうる者ははたして幾人あるだろう。 天が与えた才能からいうと桂は中位の人たるにす・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・おまえは、ついさっき、物語のなかに私生活の上の弁解を附加することは邪道であると明言したばかりのところでは無いか。矛盾しないか。矛盾していないのである。そろそろ小説の世界の中にはいって来ているのであるから、読者も、注意が肝要である。 立ち・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・世には六十を越してから合の式を挙げる人もままあると聞いているから、わたくしの将来については、わたくし自身にも明言することはできない。 しずかに過去を顧るに、わたくしは独身の生活を悲しんでいなかった。それと共に男女同棲の生活をも決して嫌っ・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 斯ういう掛合に、此方から金額を明言するのは得策でない。先方の口から言出させて、大概の見当をつけ、百円と出れば五拾円と叩き伏せてから、先方の様子を見計らって、五円十円と少しずつせり上げ、結局七八拾円のところで折合うのが、まずむかしから世・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・殊に病気の時など医師に対して自から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くにして、病症発作の前後を錯雑し、寒温痛痒の軽重を明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・本来無き家産を新たに起すは、もとより難しといえども、すでに有る家産を守るもまた、はなはだ易からずして、その難易はいずれとも明言し難きほどのものなれば、貧富ともに勉むべきは学問にして、ただその教場をして仙境ならしめざること、吾々のつねに注意し・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
出典:青空文庫