・・・澄むの難く濁るの易き、水の如き人間の思潮は、忽ちの内に、濁流の支配する処となった、所謂現時の上流社会なるものが、精神的趣味の修養を欠ける結果、品位ある娯楽を解するの頭脳がないのである、彼等が蕩々相率ひて、浅薄下劣な娯楽に耽るに至れるは勢の自・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・○私を葬り去る事の易き哉。○公侯伯子男。公、侯、伯、子、男。○銭湯よろし。○美濃十郎。美濃十郎。美濃十郎。初号活字の名刺でも作りますか。○H、ばか。D、低能。ゴルフのカップは、よだれ受け。S、阿呆。学校だけは出ました。U・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 第一にかれを本国へ返さるる事は上策也(此事難きに似て易き歟 第二にかれを囚となしてたすけ置るる事は中策也(此事易きに似て尤 第三にかれを誅せらるる事は下策也 将軍は中策を採って、シロオテをそののち永く切支丹屋敷の獄舎に・・・ 太宰治 「地球図」
・・・神の道に従うの心易きも知らずといわじ。心易きを自ら捨てて、捨てたる後の苦しみを嬉しと見しも君がためなり。春風に心なく、花自ら開く。花に罪ありとは下れる世の言の葉に過ぎず。恋を写す鏡の明なるは鏡の徳なり。かく観ずる裡に、人にも世にも振り棄てら・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・内に親愛の至情なきも外面に尊敬の礼を表することは易きが故に、舅姑に対して朝夕の見舞を闕く可らずと教うれば、教の如く見舞うことも易し。勤む可き業を怠る可らずと言えば、勤ることも易し。嫁の役目と思えば勉強すべきなれども、其教訓いよ/\厳重にして・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・而してその難きとは、何事に比すれば難く、何物に比すれば易きや。今の日本の有様にては、これを至難にして比すべきものなしといわざるをえず。然らばすなわち、国の独立は重大なり、外国の交際は至難なり。学者はこの重大至難なる責に当るも、なおかつこれを・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・第二、読本 もっとも易き文章にて諸学の手引、初歩ともなるべき事を説き、あるいは『モラルカラッスブック』などとて、脩心学の入門を記したる小冊子も、読本の内にあり。たいてい絵入りなり。この時また文法書を学ぶ。文法を知らざれば、書・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・一 尚お成長すれば文字を教え針持つ術を習わし、次第に進めば手紙の文句、算露盤の一通りを授けて、日常の衣服を仕立て家計の出納を帳簿に記して勘定の出来るまでは随分易きことに非ず。父母の心して教う可き所なり。又台所の世帯万端、固より女子の知る・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・有形の病毒にして斯の如くなれば、無形の徳義においてもまた斯の如くなるべきは、誠に睹易き道理にして、これに疑いを容るる者はなかるべし。病身なる父母は健康なる児を生まず、不徳の家には有徳なる子女を見ず。有形無形その道理は一なり。あるいは夫婦不徳・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・人間の思想、感情の単一なる古代にありて比較的によく天然を写し得たるは易きより入りたる者なるべし。俳句の初めより天然美を発揮したるも偶然にあらず。しかれども複雑なるものも活動せるものも少しくこれを研究せんか、これを描くことあながち難きにあらず・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫