・・・ それが動機になって子供は空のよくはれた晩には時々星座図を出して目立った星宿を見較べていた。その頃はまだ織女や牽牛は宵のうちにはかなりに東にあった。西の方の獅子宮には白く大きな木星が屋根越しに氷のような光を投げていた。 星座図にある・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・栗毛の駒の逞しきを、頭も胸も革に裹みて飾れる鋲の数は篩い落せし秋の夜の星宿を一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼を据える。 曲がれる堤に沿うて、馬の首を少し左へ向け直すと、今までは横にのみ見えた姿が、真正面に鏡にむかって進・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・天文をうかがって吉兆を卜し、星宿の変をみて禍福を憂喜し、竜といい、麒麟といい、鳳鳥、河図、幽鬼、神霊の説は、現に今日も、かの上等社会中に行われて、これを疑う者、はなはだ稀なるが如し。いずれも皆、真理原則の敵にして、この勁敵のあらん限りは、改・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
出典:青空文庫