・・・しかし己はすべてのお前の行為を是認してはいない。よく己の顔を見ろ。お前の誤りがわかったか。これからも生きられるかどうかはお前の努力次第だ。Aの声 己にはお前の顔がだんだん若くなってゆくのが見える。第三の声 夜明だ。己と一緒に大きな世・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・その第三の範囲というのは「労働階級の立場を是認するけれども、自分としては中流階級の自分、知識階級の自分としては、労働階級の立場に立って、その運動に参加するわけにはいかない。そこで彼らは、別に自分の中流階級的立場から、自分のできるだけのことを・・・ 有島武郎 「片信」
・・・私は心のなかで暗にその調停者の態度を是認していました。更に云えば「その人の気持もわかる」と思っていたからです。私は両方共わかっているというのは両方とも知らないのだと反省しないではいられませんでした。便りにしていたものが崩れてゆく何とも云えな・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・それらは、人類の発展に貢献したことから考えて是認さるべきである。で、プロレタリアートは、現在の戦争に対しても、それが、吾々を解放へ導くものであるか、或は、吾々をなお圧迫するものであるか、その歴史的特殊性を分析することが必要である。 フラ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・公平を失った情懐を有っていなかった自分は一本打込まれたと是認しない訳には行かなかった。が、この不完全な設備と不満足な知識とを以て川に臨んでいる少年の振舞が遊びでなくてそもそも何であろう。と驚くと同時に、遊びではないといっても遊びにもなってお・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・ともかくもこれらの名前を一定の方式に従って統計的に取り扱い、その結果がよければ前提が是認され、悪ければ否定されるのである。 完全な材料はなかなか急には得難いので、ここではまず最初の試みとして東京天文台編「理科年表」昭和五年版の「本邦のお・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・この犠牲を甘んじて受けるのは、取りもなおさず、自分の弱さを是認するのです。私は弱さに安んじたくありません。自分の弱さのために他の運命を傷つけ犠牲にするなどは、あまりに恐ろしい。三 また、私は人を責めることの恐ろしさをもしみじ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・私は漁師の群れに投じてともに働くか、でなければ傍観者としての自己の立場を是認するか、いずれかに道を極めなければならなくなった。そして私の頭には百姓とともに枯れ草を刈るトルストイの面影と、地獄の扉を見おろして坐すべきあの「考える人」の姿とが、・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・この点についてはおそらく真に真理のために努力する学者たちは先生の態度を是認しないでいられないだろう。六 徳義的脊骨のあるものには四周からうるさい事、苦しい事が集まって来る。先生はそのために絶えず癇癪を起こさなければならなかっ・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
・・・こういう自己是認ができるとともに、石が地に落ちる。彼は苦患を脱する。 こうしてある種の人々は生から逃げ出して行く。そして漸次に息をしながら死んで行く。何ものも人格に痕を残さない。人格は一歩も成長しない。腐敗がいつのまにか核実にまで及んで・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫