・・・われらの祖父母のありし日の世界をそのままで目の前に浮かばせるような、リアルな時代物映画は見たことがない。チャンバラの果たし合いでも安芝居の立ち回りの引き写しで、ほんとうの命のやりとりらしいものはどこにも求められない。時局あて込みの幕末ものの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・このような失敗はほとんど日本の時代物の映画に限って現われる特異現象であるらしく思われるのである。 ロシア映画で常に気づくことはカメラの向け方から来る構図の美しさ、ことにまた画面における線や明暗のリズミカルな駆使である。「大地」の場合にお・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ こういう時代物の映画で俳優たちのいちばんスチューピッドに見えるのは、彼らが何かひとかどの分別ありげな思い入れをする瞬間である。深謀遠慮のある事を顔に出そうとすればするほどスチューピッドになるのは当然のことである。 日本の時代物映画・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・岡鬼太郎君は近松の真価は世話物ではなくして時代物であると言われたが、わたくしは岡君の言う所に心服している。 西鶴の価を思切って低くして考えれば、谷崎君がわたくしを以て西鶴の亜流となした事もさして過賞とするにも及ばないであろう。 江戸・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
出典:青空文庫