・・・私が、あなたのお手紙の、ほとんど暴力に近い、それこそ実も蓋も無い素朴な表現に驚嘆したのも、たしかな事実でありますが、その表現せられている御意見には、一つも啓発せられるところが無かったというのも事実でありました。いまさら何を言っていやがると思・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ちょっとでいいから、とにかく、ちょっとでいいから、奥さんも、どうぞ、と、ほとんど暴力的に座敷へあがってもらって、なにかと、わがままの理窟を言い、とうとうY君をも、酒の仲間に入れることに成功した。Y君は、その日は明治節で、勤めが休みなので、二・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・その欺きかたが、浅墓な、ほとんど暴力的なものだったので、私は、そのとき実に、言いよう無く不愉快であった。私が九月のはじめ、甲府から此の三鷹の、畑の中の家に引越して来て、四日目の昼ごろ、ひとりの百姓女がひょっこり庭に現われ、ごめん下さいましい・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・インチキ新聞の記者になったり、暴力団の走り使いになったり、とにかく、ダメな男に出来る仕事の全部をやったと言っても決して言い過ぎではないかと存じます。そうして、そのダメな男は、いよいよただおのずからダメになるばかりで、ついに単身ボロをまとって・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ みな、無学である。暴力である。弱さの美しさを、知らぬ。それだけでも既に、私には、おいしくない。 何がおいしくて、何がおいしくない、ということを知らぬ人種は悲惨である。私は、日本のこの人たちは、ダメだと思う。 芸術を享楽する能力・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 不言実行とは、暴力のことだ。手綱のことだ。鞭のことだ。 いい薬になりました。四日。「梨花一枝。」 改造十一月号所載、佐藤春夫作「芥川賞」を読み、だらしない作品と存じました。それ故に、また、類なく立派であると思っ・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・「野性と暴力について。」「ダンディスム小論。」「ぜいたくに就いて。」「出世について。」「羨望について。」「原始のセンチメンタリティということについて。」そのほか、甚だけちのようなれども、題名を言われぬもの、十七八項目くらい。少しずつノオトに・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・協同した暴力の前には知恵などはなんの役にも立たないことは人間の歴史が眼前に証明している。 犀というものがどうにも不格好なものである。しかしどうしてこれが他の多くの動物よりもより多く「不格好」という形容詞に対する特権を享有することになるの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・平和――であるかどうか、それはわからぬが、ともかくも人間の目から見ては単調らしい虫の世界へ、思いがけもない恐ろしい暴力の悪魔が侵入して、非常な目にも止まらぬ速度で、空をおおう森をなぎ立てるのである。はげしい恐慌に襲われた彼らは自分の身長の何・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・で、その原因事情はいずれにもせよ、大審院の判決通り真に大逆の企があったとすれば、僕ははなはだ残念に思うものである。暴力は感心ができぬ。自ら犠牲となるとも、他を犠牲にはしたくない。しかしながら大逆罪の企に万不同意であると同時に、その企の失敗を・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫