・・・たゞ単的に古い文化を破壊し、来るべき新文化の曙光を暗示するもののみが、最も新鮮なる詩となって感ぜられる。 私たちが少くとも生活に対して愛を感じている人達が、何か感激を感ずる場合には、いつでも其の中には詩が含まれている。 詩は文字の上・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・例えば人間の文化の曙光時代にわれわれの祖先のまた祖先が生きて行くために必要であったある技術と因果の連鎖でこっそりつながれているのではないかという空想も起されないことはない。 もしか、そうであったと仮定すると、昔は腹を張らせるために使用さ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・御堀端にかかった時に、桃色の曙光に染められた千代田城の櫓の白壁を見てもそんな気がした。 日比谷で下りて公園の入り口を見やった時に、これはいけないと思った。ねくたれた寝衣を着流したような人の行列がぞろぞろあの狭い入口を流れ込んでいた。草花・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・それは子供の時分に何か長くほしがっていた新しいおもちゃを手に入れて始めてそれを試みようとする時、あるいは何かの研究に手をつけて、始めて新しい結果の曙光がおぼろに見え始めた時に感じるのと同じようなものであった。天地の間にあるものはただ向こうの・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・昨年の颱風の上陸したのは早朝であったのでその前にも空はいくらかもう明るかったであろうから、ことによるといわゆる颱風眼の上層に雲のない区域が出来て、そこから空の曙光が洩れて下層の雨の柱でも照らしたのではないかという想像もされなくはないが、何分・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・そのものの本性に関する諸問題に意外な曙光をもたらすようなことにならないとも限らない。従来はただ二つの物質間の摩擦係数さえ測定されればそれで万事が解決したと考えられていたようであるが、分子物理学の立場からすれば摩擦の問題はまだほとんど空白とし・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・を用いるという事によって、はじめて今日の科学が曙光を現わしたと思われる。もし古来の科学者が、「試み」なしの臆断を続けたり、「試み」の結果を判断する合理的の標準なしに任意の結論を試みたり、あるいは「試み」に伴なう怪我のチャンスを恐れて、だれも・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・しかし学者が第一次の近似を求めて真理の曙光を認めた時に、世人はただちに枝葉の問題を並べ立てて抗議を申込む。例えば天気予報などもある意味においてそうである。第一次の近似だけでもそのつもりで利用すれば非常に有益なものである。第二次第三次と進むに・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・ただ近来少数ではあるがまじめで立派な連句に関する研究的の著書が現われるのは暗夜に一抹の曙光を見るような気がして喜ばしい。しかし結局連句は音楽である。音楽は演奏され聞かれるべきものである。連句の音楽はもう少し広く日本人の間に演奏され享楽されて・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・間にあまる壁を切りて、高く穿てる細き窓から薄暗き曙光が漏れて、物の色の定かに見えぬ中に幻影の盾のみが闇に懸る大蜘蛛の眼の如く光る。「盾がある、まだ盾がある」とウィリアムは烏の羽の様な滑かな髪の毛を握ってがばと跳ね起る。中庭の隅では鉄を打つ音・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
出典:青空文庫