・・・……… これは朝鮮に伝えられる小西行長の最期である。行長は勿論征韓の役の陣中には命を落さなかった。しかし歴史を粉飾するのは必ずしも朝鮮ばかりではない。日本もまた小児に教える歴史は、――あるいはまた小児と大差のない日本男児に教える歴史はこ・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・ ほんとうにかわいそうな御最期です。 かくて王子のからだは一か月ほど地の上に横になってありましたが、町の人々は相談してああして置いてもなんの役にもたたないからというのでそれをとかして一つの鐘を造ってお寺の二階に収める事にしました。・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・ 猟夫は最期と覚悟をした。…… そこで、急いで我が屋へ帰って、不断、常住、無益な殺生を、するな、なせそと戒める、古女房の老巫女に、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐに梁へ掛けたそうに褌をしめなおす・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 男なお語をつづけて、「それともこう云っちゃあ少しウヌだが、貧すりゃ鈍になったように自分でせえおもうこのおれを捨ててくれねえけりゃア、真の事たあ、明日の富に当らねえが最期おらあ強盗になろうとももうこれからア栄華をさせらあ。チイッと覚・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・夜に至って、人々最後の御盃、御腹召されんとて藤四郎の刀を以て、三度まで引給えど曾て切れざりしとよ、ヤイ、合点が行くか、藤四郎ほどの名作が、切れぬ筈も無く、我が君の怯れたまいたるわけも無けれど、皆是れ御最期までも吾が君の、世を思い、家を思い、・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 殺風景な病室の粗末な寝台の上で最期の息を引いた人の面影を忘れたのでもない、秋雨のふる日に焼場へ行った時の佗しい光景を思い起さぬでもないが、今の平一の心持にはそれが丁度覚めたばかりの宵の悪夢のように思われるのである。 妹を引取って後・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・その一匹を箒でおさえつけたのを私が火箸で少し引きずり出しておいて、首のあたりをぎゅうっと麻糸で縛った。縛り方が強かったのですぐに死んでしまった。その最期の苦悶を表わす週期的の痙攣を見ていた時に、ふと近くに読んだある死刑囚の最後のさまが頭に浮・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ 私がこのセント・オラーフの最期の顛末を読んだ日に、偶然にも長女が前日と同じ曲の練習をしていた。そして同じ低音部だけを繰り返し繰り返しさらっていた。その音楽の布いて行く地盤の上に、遠い昔の北国の曠い野の戦いが進行して行った。同じようには・・・ 寺田寅彦 「春寒」
・・・ それはさておいて、ピタゴラスの最期についても色々の説があるがその中の一つはこうである。 一日ミロにおける住宅で友人達と会合しあっていたとき誰かがその家に放火した。それは仲間に入れてもらえなかった人の怨恨によるともいわれ、またクロト・・・ 寺田寅彦 「ピタゴラスと豆」
・・・たとえば、身近い人の臨終を題としたもので病中の状況から最期の光景、葬列、墓参というふうに事件を進行的に順々に詠んで行ってあるが、その中に一見それらの事件とは直接なんら論理的に必然な交渉はないような景物を詠んだ歌をいわゆるモンタージュ的に插入・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫