・・・デンマークは和を乞いました、しかして敗北の賠償としてドイツ、オーストリアの二国に南部最良の二州シュレスウィヒとホルスタインを割譲しました。戦争はここに終りを告げました。しかしデンマークはこれがために窮困の極に達しました。もとより多くもない領・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・かような人間教育をなし得る書物こそ最良の書であり、青年がたましいを傾けて愛読すべきものである。 われわれが読書に意を注がぬことの最も恐ろしいのは、かような人間教育の書にふれる機会を失うからである。仏教の開教偈に、微妙甚深無上の法・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・実験の方でも高価な既成の器械を買ってやるよりも、自分で考案した一見じじむさいように見える器械装置を使って、そうして必要なる程度での最良の効果を収めることに興味をもっていたように見える。実験上のテクニックでも人の真似をするよりは何かしら一工夫・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・頭をからっぽにする最良法は読書だからである。それで日下部氏のいわゆる少なく読む、その少数の書物にどうしたらめぐり会えるか。これも親のかたきのようなもので、私の尋ねる敵と他の人の敵とは別人であるように私の書物は私が尋ねるよりほかに道はない。・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・それでこの規定はもちろん絶対ユニークなものではないまでも種々な可能なものの中から選ばるべき最良なるものの一つであることだけは確実であろうと思われる。 以上ははなはだ未熟な分析の試みであったが、このような見方を一つの作業仮説として実際の古・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・だからこの格言は又『正直は最良の方便なり』とも云われます。」 先生は黒板へ向いて、前のにならべて今の格言を書きました。 生徒はみんなきちんと手を膝において耳を尖らせて聞いていましたが、この時一斉にペンをとって黒板の字を書きとりま・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 婦人代議士ばかりがかたまろうとするならば、その集団の力で内外へ働きかけ、各自の党が、婦人代議士たちの存在に組織的な現実性を賦与するよう、組織の内部へ正直に婦人代議士をも編み込むよう活動することに、最良の、そして最も適切な方向がある。もし・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・でさえも、この作家の最良の収穫たらしめなかった。モーパッサンが、「脂肪の塊」と「女の一生」「水の上」の他の何で文学史の上に立っているだろう。自身のロマネスクなるものの源泉を、フランスの社交小説において、こんにち語ることのできる三島由紀夫も、・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・ 当時全ヨーロッパが最良の精力をつくして、より合理的な社会生活をうちたてようとしていたまじめな人間努力の影響が、マリアの生活に欠けていたことは、マリアが二十三になって、ますます絵画に精進し、芸術におけるリアリズムをとらえ得るようになって・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・より強い力を内より湧き出させるのが、自欺を破ってやる最良の方法であるのだから。こうして私は彼女を優しくいたわることができた。――一時間たった。私はいつのまにかメフィストであった。女の心のすみずみから虚偽と悪徳とを掘り出し、それを容赦のない解・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫