・・・…… 変に物干ばかり新しい、妻恋坂下へ落ちこぼれたのも、洋服の月賦払の滞なぞから引かかりの知己で。――町の、右の、ちゃら金のすすめなり、後見なり、ご新姐の仇な処をおとりにして、碁会所を看板に、骨牌賭博の小宿という、もくろみだったらしいの・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・蝶子の前借は三百円足らずで、種吉はもはや月賦で払う肚を決めていた。「私が親爺に無心して払いまっさ」と柳吉も黙っているわけに行かなかったが、種吉は「そんなことしてもろたら困りまんがな」と手を振った。「あんさんのお父つぁんに都合が悪うて、私は顔・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・○以後、洋服は月賦のこと。断行せよ。○本気になれぬ。○ゆうべ、うらない看てもらった。長生する由。子供がたくさん出来る由。○飼いごろし。○モオツアルト。Mozart.○人のためになって死にたい。○コーヒー八杯呑んで・・・ 太宰治 「古典風」
・・・を植物園に拵え直すというので、その景色のいいまわりにアカシヤを植え込んだ広い地面が、切符売場や信号所の建物のついたまま、わたくしどもの役所の方へまわって来たものですから、わたくしはすぐ宿直という名前で月賦で買った小さな蓄音器と二十枚ばかりの・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・雑誌を買っていた金は、高くなった洋服の月賦にまわさねばならない。小説を買って、カフェーのマダムをめぐる四人の男の情痴の世界を読むよりは、今日「大衆」の真面目な「大人」の心配は、子供をどうして育てるかにかかっているであろう。 文部省の教育・・・ 宮本百合子 「「大人の文学」論の現実性」
・・・カール・コルヴィッツというドクトルはつつましい生活をする勤労者のためにノルデンにあった月賦診療所に働くことを、科学者としての使命と考えていた人で、真に労働者の医者であろうとした人であった。 父シュミットは、ケーテの幼い時からその才能を認・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・利まわりのよい貯金の工夫。月賦で家を建てる方法。そんな風な経済記事が扱われ、政治にしろ、そのときの大臣連の出世物語、政界内幕話という工合であった。戦争がはじまったとき、すべての浪花節、すべての映画、すべての流行唄、いわゆる大衆娯楽の全部が戦・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 十八ヵ月月賦!「キリストは生きている!」教会だ。「質」「古着」 高い建物と建物との隙間に引込んで煤けきった大鉄骨が見えた。黒い、日のささぬ鉄骨の間に白いものを着た子供が動いていた。工場裏に似たそれは皇后児童病院だった。・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫