・・・ヒステリーに陥らずに、瘠我慢の朗らかさを保ち得るものが幾人あろう。 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ その言葉が、朗らかに、快活に、心から、歓迎しているように、兵卒達には感じられた。 兵卒は、殆んど露西亜語が分らなかった。けれども、そのひびきで、自分達を歓迎していることを、捷く見てとった。 晩に、炊事場の仕事がすむと、上官に気・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・と呉は朗らかに笑った。「時にゃうたれることもあろうでか。これがおもしれえんだ」「俺れら、こら、これだけやってきたぞ」 若い男は、一と握りの紙幣束を紙屑のようにポケットから掴みだしてみせた。そして、また、ルーブル相場がさがってきたと話・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・その時の、自分の声が、朗らかにすき通って、いい響きを持っていたのを大隊長は満足に思った。 ――今持っている旭日章のほかに、彼は年金のついている金鵄勲章を貰うことになる。俸給以外に、三百円か五百円、遊んでいても金が這入ってくることになるの・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・彼は停車場へ行った。彼は朗らかな気分だった。が、恵子は来なかった! どうすればいいのか? 龍介は分らなくなった。 龍介は、ハッキリ自分の恵子に対する気持を書いた長い手紙を出した。ポストに入れるとき、二、三度躊躇した。龍介には「ハッキリ」・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・三人の友人と、佐吉さんと、私と五人、古奈でも一番いい方の宿屋に落ちつき、いろいろ飲んだり、食べたり、友人達も大いに満足の様子で、あくる日東京へ、有難う、有難うと朗らかに言って帰って行きました。宿屋の勘定も佐吉さんの口利きで特別に安くして貰い・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・どれくらいの収入があるものです、と母が聞くから、はいる時には五百円でも千円でもはいります、と朗らかに答えたが、母は落ちついて、それを幾人でわけるのですか、と言ったので、私はがっかりした。本屋を営んでいるものとばかり思い込んでいるらしい。けれ・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・「ひどいわ。」朗らかに笑って言って素早く母の髪をエプロンで拭いてやり、なんでもないようにその場を取りつくろってくれたのは、妹の節子である。未だ女学生である。この頃から、節子の稀有の性格が登場する。 勝治の小使銭は一月三十円、節子は十・・・ 太宰治 「花火」
・・・刑務所や工場を題材にしているにかかわらず、全体に明るい朗らかな諧調が一貫している。このおもしろさはもちろん物語の筋から来るのでもなく、哲学やイデオロギーからくるのでもなんでもなくて、全編の律動的な構成からくる広義の音楽的効果によるものと思わ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・伴奏音楽も唱歌も、どうも自分には朗らかには聞こえない。むしろ「前兆的」な無気味な感じがするようである。 海岸に戯れる裸体の男女と、いろいろな動物の一対との交錯的羅列的な編集があるが、すべてが概念的の羅列であって、感じの連続はかなりちぐは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫