・・・ゴッホに、到底セザンヌの軽快洒脱を望むことはできないが、その表現主義的であり、哲学的である点に於て、ゴッホとムンクと相通ずるところがあるのは、同じ、北方の産であったゝめであろう。 私達は、さらに、漂浪の詩人に、郷土のなつかしまれたのを知・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・それ以上、なにを望むというのか。金を儲けたという、すさまじい重圧の下で、じっと我慢してりゃ良いのだ。じたばたする必要はないのだ。金があって苦しければ、そっくり国家へ献金すれば良いのだ。じたばたするのは、臆病だ。――おれはもう黙って見ていられ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・或は寧ろ私の望む処で御座います。けれども理由を被仰い、是非其の理由を聞きましょう。』と酔に任せて詰寄りました。すると母は僕の剣幕の余り鋭いので喫驚して僕の顔を見て居るばかり、一言も発しません。『サア理由を聞きましょう。怨霊が私に乗移って・・・ 国木田独歩 「運命論者」
・・・ 農民の生活を題材として取扱う場合、プロレタリア文学は、どういう態度と立場を以て望むか、そして、どういう効果を所期しなければならないか、ということは、大体原則的には、理解されていた。それは、「土の芸術」とか「農村の文化」とか、農村を都市・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・三十九町目あたりに到れば、山急に開けて眼の下に今朝より歩み来しあたりを望む。日も暮るるに近き頃、辛くして頂に至りしが、雲霧大に起りて海の如くになり、鳥居にかかれる大なる額の三峰山という文字も朧気ならでは見えわかず、袖も袂も打湿りて絞るばかり・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・の域に達すると同時に、精神的にも常に平和・安楽にして、種々なる憂悲・苦労の為めに心身を損うが如きことなき世の中となれば、人は大抵其天寿を全くするを得るであろう、私は斯様な世の中が一日も速く来らんことを望むのである、が、少くとも今日の社会、東・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・遠くから望むと一群の林のような観をなしていたが、民友社にも種々異った意見を持った人が混っていて、透谷君の激しい論戦は主に民友社の徳富蘇峰氏、山路愛山氏などを対手取ったものであった。でも愛山氏などは、殆んど正反対に立った論敵ではあったが、一面・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・ これらの點より推さばこの傳説作者は、天地人三才の思想を背景にして、之を創作せるものなるべく、漢人殊に儒教が天子に望む所は公明正大、その間に一點の私を插むなからんことなれば、この理想を堯に托してその禪讓をつくり、人道の理想を舜に、勤勉の・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
大貧に、大正義、望むべからず ――フランソワ・ヴィヨン 第一回 一つの作品を、ひどく恥ずかしく思いながらも、この世の中に生きてゆく義務として、雑誌社に送ってしまった後・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・そして一体天才の出現を無制限に望むのがいいか悪いかという根本問題に触れたところで、アインシュタインの独特な社会観をほのめかしている。しかしこれらの点の紹介は他の機会に譲ることにしたい。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
出典:青空文庫