・・・しかしその色の汚い方の絵は未成品だと思います。それだから同情もありそれを描いた人に敬意も持ちますけれども、わざわざ金を出して内に買って来て書斎に掛けようと思わない絵ばかりでありました。 こういう風に色々違う絵があるからして、その点から出・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・あるいは立派に建設されないうちに地震で倒された未成市街の廃墟のようなものです。 しかしながら自己本位というその時得た私の考は依然としてつづいています。否年を経るに従ってだんだん強くなります。著作的事業としては、失敗に終りましたけれども、・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・僕の魂の生み出した真珠のような未成品の感情を君は取て手遊にして空中に擲ったのだ。忽ち親み、忽ち疎ずるのが君の習で、咬み合せた歯をめったに開かず、真心を人の腹中に置くのが僕の性分であった。不遠慮に何にでも手を触れるのが君の流儀で、口から出かか・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・碑文に漢文体を用いるのも、また形式未成のゆえである。これが歴史である。現在はかくのごとくである。 近ごろわたくしを訪うて文学芸術の問題ないし社会問題に関する意見を徴し、また小説を求むるものが多い。わたくしはその煩にたえない。あえてあから・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫