・・・彼はわざわざ上京して共産党の本部を訪問した。ところが、党員が出て来ていうのには、「野坂氏は多忙で誰とも会いません。用件は私が伺いましょう」 用件はなかった。すごすご帰る道、仙台に板垣退助の娘がいることを耳にした。板垣退助こそ民主主義・・・ 織田作之助 「民主主義」
・・・そして、本部の方へ大股に歩いて行った。……途中で、ふと、彼は、踵をかえした。 つい、今さっきまで、松木と武石とが立っていた窓の下へ少佐は歩みよった。彼は、がん丈で、せいが高かった。つまさきで立ち上らずに、カーテンの隙間から部屋の中が見え・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・巻脚絆を巻くのがおそく、整列におくれて、たび/\一緒に聯隊本部一週の早駈けをやらされたものだ。「おい、おい!」 栗本は橇の上から呼びかけた。 田口は看護長の返事を待ちながら、傷病者がうまく橇に身を合わそうとがた/\やっているのを・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・政権一度われらの手に入らば、あすこはゲー・ペー・ウの本部になるんだ。そのために今から精々立派な、ちっとやそっとで壊れない丈夫なものにして置くんだ!」 と云った。そういう筋のものだった。 小説嫌いの俺も、その言葉が面白かったので、記憶・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・お濠をぐるっとめぐって、参謀本部のとこから、日比谷へ出て、それから新橋駅へ出て、赤羽は、その裏じゃないか。 ――そうですか、――じゃ、――ありがとう。 ――や、しっけい。また、あそびに来たまえ。そのうち、何か、うめ合せしよう、ね。・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・レールを挾んで敵の鉄道援護の営舎が五棟ほど立っているが、国旗の翻った兵站本部は、雑沓を重ねて、兵士が黒山のように集まって、長い剣を下げた士官が幾人となく出たり入ったりしている。兵站部の三箇の大釜には火が盛んに燃えて、煙が薄暮の空に濃く靡いて・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・無論参謀本部の五万分一地図にはないほど新しい道路である。道傍の畑で芋を掘上げている農夫に聞いて、見失った青梅への道を拾い上げることが出来た。地図をあてにする人間が地図にない道に出逢ったほど当惑することはない。頭の中の実在と眼前の実在とが矛盾・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・如何に精密なる参謀本部の地図でも一木一草の位置までも写したものはない。たとえ測量の際には正確に写したものでも、山の中の木こり径などは二、三年のうちにはどうなるかもしれない。そこまで地図をあてにするのはあてにする方が悪いのである。権威者の片言・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・ 夕方藤田君が来て、図書館と法文科も全焼、山上集会所も本部も焼け、理学部では木造の数学教室が焼けたと云う。夕食後E君と白山へ行って蝋燭を買って来る。TM氏が来て大学の様子を知らせてくれた。夜になってから大学へ様子を見に行く。図書館の書庫・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・参謀本部へ、一時金を受けに行くと、そこにいた掛の方が、『大瀬晴二郎の父親の吉兵衛と云うのあお前か』と云うんです。へえ、さようでござえんすと申しあげると、晴二郎は内地で死んだんだから、金は下げる訳にいかん、帰れ帰れと恁う云うんでしょう。・・・ 徳田秋声 「躯」
出典:青空文庫